ロイヤリティ

ユーザー・セントリック方式によるストリーミング支払いがもたらしうる「意図しない影響」

「ユーザー・セントリック方式」というのは、音楽ストリーミング・サービスによるロイヤリティ支払いの新たな分配モデルだ。これまでにもこの方式を取り入れることについて議論がなされてきたが、あらゆる面において、多くの人が考えているほど、これは単純なことではない。ユーザー・セントリック方式は、現行のように、ストリーミング・サービスにおける有料会員の月額費を一度集めて、ストリーミング再生回数に基づいて分配するのではなく、実際にそれらのユーザーが該当月に再生したアーティスト間でのみ、ロイヤリティを分配するモデルとなっている。

ユーザー・セントリック方式の方がフェアだという意見も多い中、この方式を取り入れるには、いくつかの複雑な問題がある。

一つ目は、ユーザー・セントリック方式に切り替えることの影響を理解するため、これまでに行われた研究の数はわずかであり、研究結果が今のところ、決定的となっていないことが挙げられる。しかし、「インディペンデント / ニッチなジャンルのアーティストがより多くのお金を獲得することができる」というような単純なことではないという。

二つ目は、これらの研究からは、ストリーミング・サービス、レーベル、出版社、徴収団体がユーザー・セントリック方式に切り替えるのに、どれほど費用がかかるか(費用によっては、アーティストへの支払いにも影響が及びかねない)、またどれほど困難であるかということも明らかになっていないことだ。

三つ目は、一部の権利保有者やストリーミング・サービスだけがユーザー・セントリック方式を取り入れて、他が取り入れなかったらどうなるかということだ。一体どのようにして業界全体で同時に切り替えることが可能なのか。

ユーザー・セントリック方式は、より公平なモデルに感じられるかもしれないが、カンファレンスなどで叫ばれている「ユーザー・セントリック方式を採用しよう!」という意見は、これらの複雑な問題を看過していることが多い。しかし、これらの問題は、ユーザー・セントリック方式を却下する理由になるものではなく、より大規模書く広角な研究を推進する理由となるべきだ。

最近の研究としては、Spotifyのチーフ・エコノミストであるウィル・ペイジ氏と元PRS for MusicとASCAP幹部のディヴィッド・サフィール氏による論文がある。この論文の主要なポイントは、どれくらいの人々がストリーミングを利用しており、どれくらいのアーティストを実際に聴いているのかといった、「ユーザーの行動」について詳しく話し、ストリーミング・サービスがユーザー・セントリック方式を採用すべきか、アーティストはユーザー・セントリック方式と現行方式のサービス、どちらを好むかといったことを理解する必要があると述べていることだ。

「現行方式では、アーティストは多様性にはあまり関心を払わず、単純に、自分たちの音楽を再生するユーザーが最も多いプラットフォームを好むでしょう。ユーザー・セントリック方式においては、アーティストは、好みの多様性が少ないリスナーが多いストリーミング・プラットフォームを好むようになるでしょう。」

この論文は、ユーザー・セントリック方式に切り替える前に、これら全ての課題について、この先数ヶ月から数年にわたって、さらに多くの議論が必要とされることを明示している。この複雑さを完全に理解している人々は、業界がユーザー・セントリック方式を採用すべきかどうか、まだ確固とした結論を出せていない。一方で、切り替えを推奨する人たちの多くは、潜在的な影響について、まだ完全に理解できていないようだ。

どちらにせよ、より一層の研究が、人々のユーザー・セントリック方式への理解を深めることに繋がるだろう。恐らく、今の動きとして最も求められているのは、大手ストリーミング・サービスが、社内向けとしてではなく、業界と協力して、自社のデータと専門知識を活用した研究を行い、結果を公にすることだろう。しかし、こういった研究でさえも、こうした複雑な問題を山ほど内包していることを忘れてはならない。

Spotifyと作詞作曲者 / 出版社の関係に影

Spotifyに対する出版社コミュニティからの批判の声が大きくなっている。アメリカの全米著作権使用料委員会(CRB)が決定した、2018年から2022年の間におけるロイヤリティ率の引き上げに関して、Spotifyはその他のストリーミング・サービスとともに、控訴していた。しかし、今度はまた新たに異なる動きを見せている。

「CRBの新たな規定によると、我々は2018年、ほとんどの出版社に対して、払いすぎています。CRBの決定への控訴は懸案中ですが、CRBが定めたレートは現行法であり、我々は2018年だけでなく、出版社への支払額が大幅に増えるこの先の未来においても、これを遵守します。」とSpotifyは声明を発表した。

「2018年における過払金を今すぐに回収するのではなく、出版社への調整の影響を最小限に抑えるため、2019年末まで回収期間を延長することを申し出ました」とSpotifyは続けている。今回のロイヤリティ率引き上げ法案によって、家族プランなどの取り扱い方法が変更となったために、過払い金が出たようだ。

米国出版社協会(NMPA)の会長であるデイヴィッド・イズラライト氏は、すぐさまSpotifyの主張を非難している。「CRBの決定に控訴しているデジタル・サービスが、その決定の一部を利用して利益を得ようとしているというのは、非常に偽善的だと思います」とイズラライト氏はミュージック・ビジネス・ワールドワイドやVarietyに語っている。

Spotifyにもこういった主張をする権利はあるが、最近のSpotifyの出版社コミュニティに対するアプローチは不可解と言わざるを得ない。マージンの増加による利益は、出版社や作詞作曲家間における評判の低下を埋め合わせることができるほど価値があるものだろうか。

Spotifyは、単純に自社の権利のために立ち上がっていると主張するかもしれない。しかし、個々の出版社との衝突によって引き起こされる損害や、それが引き起こすSpotifyへの憤り、不信感は、ビジネスの中心的な柱とも言える、Spotifyと音楽業界との関係性を犠牲にしかねず、無視できるものではないだろう。

ユーザー・セントリック方式取り入れへの呼び声高まるも、懸念点も

音楽ストリーミングサービスからのロイヤリティ分配方法をユーザー・セントリック方式(※各ユーザーからのロイヤリティを、そのユーザーが実際に聴いているアーティスト間でのみ分配するという方法)に移行させるべきかどうかという議論は、まだ音楽業界ではメジャーにはなっていない。しかし、この方式を求める声が徐々に大きくなっていることは確かだ。英・ブライトンにて行われたThe Great Escapeというカンファレンスでは、この議論について、新たな角度から意見が寄せられた。

議論の中で、作詞作曲家団体のThe Ivors Academy会長のクリスピン・ハント氏は、Appleがユーザー・セントリック方式を調べていたと述べた。

「ジャズなどのマイナーなジャンルは恩恵を受けるかもしれませんが…アメリカのApple Musicでは、テイラー・スウィフトが他のアーティストにお金を分けるような形になっています。数え切れないほど多くの人がテイラー・スウィフトの楽曲を再生していますが、彼女の音楽のロイヤリティはその他のアーティストとも共有されているからです。」

また、ハント氏は、中南米やインドなどが世界的ストリーミング再生数の大部分、つまりロイヤリティ支払いの世界的シェアを占めるようになれば、メジャー・レーベルもユーザー・セントリック方式に乗り気になるだろうと示唆した。

「ユーザー・セントリック方式でなければ、ストリーミング再生数のほとんどが米レーベルの管理外である、中南米やインドのアーティストにいくでしょう。そのため、大手レーベルは『やばい!ユーザー・セントリック方式に変えなきゃ!』となるに違いありません」

(しかし、インドはライセンス契約などでも他市場と異なる扱いを受けており、ロイヤリティ支払いに関しても、他市場とは分けられている。そのため、ハント氏が言うような、ユーザー・セントリック方式への転換期が必ずしも訪れるわけではないかもしれない。)

国際マネージャー団体EMMAのパー・クヴィマン氏はもう一つのポイントを指摘している。ユーザー・セントリック方式は、スウェーデンのような、より小規模の音楽市場のレーベルにとっても、より多くのストリーミング収益をもたらす可能性があるというのだ。

「スウェーデンのメジャー・レーベルは皆ユーザー・セントリック方式を求めています。アメリカやイギリスでこの方式を突き通すのはむずかしいかもしれません。ユーザー・セントリック方式の原則を我々はより深く理解しなくてはならず、この方式がもたらす影響についても、より多く研究をする必要があるでしょう。」

Featured Artists CoalitionのCEOであるルーシー・キャスウェル氏も注意喚起を促した。

「素敵なアイデアに聞こえますよね。でも、そもそも現体制で実行可能なのでしょうか?また、誰がユーザーに一番多く楽曲を提供できるかという財布シェア型に戻るのでしょうか?また、ユーザー・セントリック方式が実行されたら、お金がどこにいくのかについても考えなくてはならないでしょう。新方式が取り入れられても、ストリーミング・サービスはライセンサーに支払いをする必要があります。新たなロイヤリティ・システムが構築されたとしても、そのお金はきちんと受取人に計算、そもそも反映さえされるでしょうか?新方式を可能にすることや、誰が支払いを受けるべきかという優先順位を決めることももちろん大切です。しかし、我々は、一つのソリューションが全員に当てはまることが好きな業界ですが、今回はそうはならないでしょう。」

インディー・レーベルのストリーミング再生数ごとの支払いレートが明らかに

アーティストの権利を主張するブログ「The Trichordist」が、『ストリーミングの価格バイブル』を発表した。The Trichordistは、毎年、主要なストリーミング・サービスにおける、最新のストリーミング再生回数ごとのロイヤリティ率を比較するレポートを発表している。

今年の報告は、例年通り、「約250以上のアルバムカタログを保有する、中規模のインディー・レーベル」からのデータに基づいているとのこと。ちなみに、このレーベルのカタログ全体で年間今や10億回のストリーミング再生回数を生み出しているという。

ブログによると、このレーベルのストリーミングからの収益の97%は、トップ10位のストリーミング・サービスから来ており、88%はトップ5位から来ているという。ちなみに、トップ5位に入っているストリーミング・サービスは、上から、Spotify、iTunes/Apple(ダウンロードも含む)、YouTubeのコンテンツIDからの収益、Amazon Music Unlimited、Google Playとなっている。

ブログによると、「Spotifyのストリーミング再生回数あたりのレートは、前年の0.00397ドル(0.44円)から16%減の0.00331ドル(約0.36円)と、前年に続き下落している。Appleについては、前年の0.00783ドル(約0.86円)から36%減の0.00495ドル(約0.54円)に下がった」という。

また、ブログは下落の要因について「2018年は、ダウンロードからストリーミングへの収益の大幅な移行が見られ、より積極的なプラン(家族割や無料トライアルなど)の提供や、より多くの地域への進出が相まったため、全体的なストリーミング再生回数あたりのレートが下がったのだろう。」と述べた。

サンプルとして取り上げられたレーベルのストリーミング再生のうち、Spotifyが占めたのは29.2%、Appleが占めたのは10%弱、YouTubeコンテンツIDは48.6%となっている。そして、それぞれのストリーミングからの収益は全体の48.9%(Spotify)、25%(Apple)、7%(YouTubeコンテンツID)となったという。

この数値について、「全体のストリーミング再生数のうちの50%近くが、収益の7%しか生み出していない。Apple MusicとSpotifyの組み合わせは、全ストリーミング数の40%、全収益の74%にも満たない」とブログは主張している。

今回のブログが発表したデータは、単一のレーベルをソースとしたものであり、市場全体を投影したものではない。しかし、過去の分析の傾向などと比較すると、非常に有効なデータであることは間違いないだろう。

例えば、このレーベルのストリーミング再生回数のボリュームと収益は大幅に伸びているのに対し、再生回数ごとのレートは2014年に0.00521ドル(約0.57円)だったものが2016年には0.00437ドル(約0.48円)、2017年には0.00397ドル(0.44円)、2018年には0.00331ドル(約0.36円)と下がっている。