先週のニュースで取り上げた通り、IFPI(国際レコード産業連盟)による2018年の報告書では、ストリーミングによって音楽業界が持ち直していることが主なトピックとなった。全体的な市場は9.7%成長し、ストリーミングは34%成長、今や全世界の収益の46.9%を占めるようになっている。

そして成長を続けるストリーミング市場における勢力争いは未だとどまるところを知らない。しかし、新たに発表された統計や開発のニュース、噂を総合して分析すると、現在の状況と今後なぜ「地域対応化」が重要課題になるかが見えてくる。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、今年2月時点で、アメリカ国内において、Apple Musicの有料登録者数が2,800万人となり、Spotifyの2,600万人を抜いたという。どちらの会社も発表された数字について肯定も否定もしておらず、情報元は匿名となっている。

世界的数字としては、Spotifyのユーザー数が2億700万人、その内9,600万人が有料会員、Apple Musicの有料会員数が5,600万人と、Spotifyの方がまだまだ優勢となっている。しかし、大体の地域において、Spotifyの方がApple Musicよりずっと早くローンチしていたという事実もある(ちなみに日本におけるローンチの順は逆)。

この競争力の核心となっている部分として、各サービスがどのように有料会員を増やそうと試みているかがある。Spotifyは無料会員プランから、Appleは膨大なiPhoneやiPad利用者から、そのほかには両社とも通信会社を通じたセットプランや、家族プランによるディスカウントなどを駆使して、有料会員数を伸ばそうとしている。

SpotifyもApple Musicも、音楽を主力として展開しているが、最近では、ポッドキャスト事業も次なる闘争の場となりつつあるようだ。世界的には、Appleがポッドキャスト大手だが、ポッドキャストに関する情報を扱うVoxnest社によって発表された新しいデータによると、Spotifyもヨーロッパやアジアの市場で成長しており、中南米のほとんどの地域ではSpotifyの方が優勢となっているという。

Spotifyがスペイン語圏の市場で優勢となっているのは、異なる市場・地域で訴求効果を上げるために、異なるタイプのオーディオ・コンテンツが使用されていることを示しており、興味深い点だと言えるだろう。ストリーミング・サービスには世界中で通じる「万能型」のコンテンツやマーケティング戦略はないとよく言われるが、これはその最も顕著な例だと言える。

Spotifyはさらに、日本における地位も確立するために動いている。Spotifyによる「Early Noise」というイベントでは、「大きな飛躍が期待される新進気鋭の国内アーティスト」をフィーチャーし、ストリーミングを通じてブレイクする次世代の国内アーティストの誕生に一役買っている。

成熟している市場においても、新興市場においても、Apple MusicやSpotifyはディスカウントという技を使用して何度も登録者数を増やそうと試みている。当たり前だが、ディスカウントには、サービスの利益が圧迫され、短期的には損失が増大するというリスクがあるものの、長期的に見て競合を追い抜く狙いで行われている。

Apple Musicは、インドにSpotifyとYouTube Musicがローンチしたタイミングで同国における有料プランの価格を下げている。個人プランは月額120ルピー(約193円)、家族プランは月額190ルピー(約305円)だったところ、今はそれぞれ99ルピー(約159円)と149ルピー(約239円)に値下げされているとのこと。Spotifyの有料会員プランは119ルピー(約191円)、YouTube Musicは129ルピー(約207円)となっており、これらに対抗した値下げとみられている。

Apple Musicの動きからもインドが、ユーザー数を伸ばそうとするストリーミング・サービスにとって、極めて重要な市場であることがわかる。さらに、世界で最もモバイル通信費が安いのはインドとも言われており、この事もストリーミングへの動きを促す要因となっている。

最近では、SpotifyやApple Musicに加えて、アマゾンも価格競争に参戦してきている。価格競争、成熟市場における優位性闘争、ストリーミングが普及し始めている人口の多い市場におけるシェア争い、オーディエンス数およびブランド認知向上のための音楽以外のオーディオ・コンテンツ利用などはすべて、急速な変化を遂げる複雑な世界市場でストリーミング・サービスがシェアを拡大するために繰り広げられているアプローチだ。

ストリーミング競争は、世界各国で繰り広げられている。ストリーミング・サービスは異なる市場におけるニュアンスの違いを理解し、それぞれの地域にあった戦略を開発する方法を素早く学習していると言えるだろう。