デジタル・ロイヤリティ

ユーザー・セントリック方式取り入れへの呼び声高まるも、懸念点も

音楽ストリーミングサービスからのロイヤリティ分配方法をユーザー・セントリック方式(※各ユーザーからのロイヤリティを、そのユーザーが実際に聴いているアーティスト間でのみ分配するという方法)に移行させるべきかどうかという議論は、まだ音楽業界ではメジャーにはなっていない。しかし、この方式を求める声が徐々に大きくなっていることは確かだ。英・ブライトンにて行われたThe Great Escapeというカンファレンスでは、この議論について、新たな角度から意見が寄せられた。

議論の中で、作詞作曲家団体のThe Ivors Academy会長のクリスピン・ハント氏は、Appleがユーザー・セントリック方式を調べていたと述べた。

「ジャズなどのマイナーなジャンルは恩恵を受けるかもしれませんが…アメリカのApple Musicでは、テイラー・スウィフトが他のアーティストにお金を分けるような形になっています。数え切れないほど多くの人がテイラー・スウィフトの楽曲を再生していますが、彼女の音楽のロイヤリティはその他のアーティストとも共有されているからです。」

また、ハント氏は、中南米やインドなどが世界的ストリーミング再生数の大部分、つまりロイヤリティ支払いの世界的シェアを占めるようになれば、メジャー・レーベルもユーザー・セントリック方式に乗り気になるだろうと示唆した。

「ユーザー・セントリック方式でなければ、ストリーミング再生数のほとんどが米レーベルの管理外である、中南米やインドのアーティストにいくでしょう。そのため、大手レーベルは『やばい!ユーザー・セントリック方式に変えなきゃ!』となるに違いありません」

(しかし、インドはライセンス契約などでも他市場と異なる扱いを受けており、ロイヤリティ支払いに関しても、他市場とは分けられている。そのため、ハント氏が言うような、ユーザー・セントリック方式への転換期が必ずしも訪れるわけではないかもしれない。)

国際マネージャー団体EMMAのパー・クヴィマン氏はもう一つのポイントを指摘している。ユーザー・セントリック方式は、スウェーデンのような、より小規模の音楽市場のレーベルにとっても、より多くのストリーミング収益をもたらす可能性があるというのだ。

「スウェーデンのメジャー・レーベルは皆ユーザー・セントリック方式を求めています。アメリカやイギリスでこの方式を突き通すのはむずかしいかもしれません。ユーザー・セントリック方式の原則を我々はより深く理解しなくてはならず、この方式がもたらす影響についても、より多く研究をする必要があるでしょう。」

Featured Artists CoalitionのCEOであるルーシー・キャスウェル氏も注意喚起を促した。

「素敵なアイデアに聞こえますよね。でも、そもそも現体制で実行可能なのでしょうか?また、誰がユーザーに一番多く楽曲を提供できるかという財布シェア型に戻るのでしょうか?また、ユーザー・セントリック方式が実行されたら、お金がどこにいくのかについても考えなくてはならないでしょう。新方式が取り入れられても、ストリーミング・サービスはライセンサーに支払いをする必要があります。新たなロイヤリティ・システムが構築されたとしても、そのお金はきちんと受取人に計算、そもそも反映さえされるでしょうか?新方式を可能にすることや、誰が支払いを受けるべきかという優先順位を決めることももちろん大切です。しかし、我々は、一つのソリューションが全員に当てはまることが好きな業界ですが、今回はそうはならないでしょう。」

世界三大メジャーレーベルによる、一時間あたりのストリーミング収益は約22億円

世界三大メジャー・レーベル全てが、2018年最終四半期における決算報告書を発表した。発表により、昨年一年間を通し、世界三大メジャーのビジネスがどのように成長したかが明らかとなった。

音楽業界サイトのミュージック・ビジネス・ワールドワイド(MBW)の分析によると、昨年、ユニバーサル、ソニー、ワーナーは、ストリーミング・サービスから前年比30.8%増となる69億3千万ドル(約7,682億9,445万円)の収益を上げたという。1時間あたりにして、約1,900万ドル(約21億624万円)の収益だ。

分析によると、2018年、ユニバーサル・ミュージックのストリーミングからの収益は8億6,400万ドル(約957億7,872万円)増加、ワーナー・ミュージックは3億9,600万ドル(約438億9,660万円)増加、ソニー・ミュージックは3億6,800万ドル(約407億9,280万円)増加したという。

ユニバーサル・ミュージックによると、2018年において4番目に売れたのは、ビートルズの『White Album』だったという。調査会社のMIDIAは、「White Album」が売れたのはストリーミングのおかげではないと分析している。

MIDIAは「『White Album』はストリーミングを通じて、ユニバーサル・ミュージックの4番目に売れたアルバムになったわけではなく、フィジカルの売上を通じてなったのです。」とコメントしつつ、50周年記念として同アルバムのプレミアム版が、ストリーミングやダウンロードだけでなく、フィジカルとしてもリリースされたことを指摘している。

また、「25ドル価格バージョンのCDを50万枚と、ボックスセットを7万5千セット売れれば、750万ドル(約8億3,137万円)のレーベル収益を生むことができます。同じ収益ををストリーミングから生み出すとなると、アルバム収録の15曲それぞれを6,250万人が再生しなくてはなりません。」とも分析している。