アマゾンの音楽ストリーミング・サービスは、世界中で5,500万人以上のユーザー数を築き、かつ、そのほとんどが有料でサービスを利用しており、世界的な音楽サブスクリプション市場において、SpotifyおよびApple Musicに次いで3番目に大きなプレーヤーとなっている。

アマゾンが競合サービスに遅れを取っていた分野の一つは、アーティスト・アナリティクスだ。つまりアーティストやアーティスト・チーム向けに公開する、アマゾンのサービスやデバイスで、アーティストの楽曲がどのようなストリーミング・パフォーマンスを見せているかというデータのことだ。しかし、ついにアマゾンも、Spotify for ArtistsやApple Music for Artistsに相当する独自サービスを開始した。

サービスの名前は、Amazon Music for Artistsで、iOSおよびAndroid端末向けに、モバイル・アプリとしてローンチされ、ウェブ版のダッシュボードも続く予定だという。また、Amazon Musicでオーディエンスを築くためのアーティストへのアドバイスや、リソースを提供するウェブ版のガイドも用意されている。

アプリは現時点で英語のみの対応となっているが、世界中のアーティストおよびそのチームが利用可能だ。アーティストが自身のデータにアクセスするための認証プロセスが用意されるが、アマゾンは、ディストリビューターのCD Babyと契約を結び、同サービス経由で配信しているアーティストには「優先アクセス」を提供するという。

Music Allyはアマゾンから事前にアプリのデモ版を受け取ったが、アマゾンは、将来的にさらに多くの機能と改善が行われる予定だとして、まだアプリが「バージョン1」の段階であると強調していた。ローンチ時の重要な機能の一つとしては、データがリアルタイムに近いことが挙げられるだろう。アマゾンは数分ごとにデータを更新するという。

アプリは五つのタブから構成されている。「Overview(概要)」、「Songs(楽曲)」、「Fans(ファン)」、「Voice(音声)」、そして「Programming(プログラム)」だ。アーティストは、過去24時間、過去7日間、過去28日間、もしくは、カスタムの日付フィルターを使用することで、2018年1月1日以降の任意の期間を選択して、データを閲覧することができる。

「Overview(概要)」タブと「Songs(楽曲)」タブでは、選択した期間中、Amazon Musicにおいて、アーティストがどれくらいのリスナーとストリーミング回数を得ていたかに関する簡単な統計と、アルバムおよび楽曲ごとの詳細を見ることができる。

「Fans(ファン)」タブでは、全体のリスナー数が含まれており、そのうちどれくらいが「ファン」で、どれくらいが「スーパーファン」であるかも示されるようになっている。アーティストを聴いている頻度、聴いている時間、Amazon MusicアプリやAlexa経由でフォローしているか等の指標から、独自の方法論を利用して、リスナーがファンやスーパーファンに当てはまるかどうかを判断しているという。

今のところ、アプリでは、アーティストにこれらの数値を表示して、比率を把握させるのみにとどまっている。アマゾンがMusic Allyに提示したデモ版では、リスナーの39%がファン、4%がスーパーファンとしてカウントされていた(ちなみに、アプリではパーセントではなく、実際の数字が表示されるようになっている)。

将来的に、アマゾンもSpotifyやPandoraなど、他のストリーミング・サービスと同じように、アーティストが熱心なリスナーにリーチしたりターゲットするのを支援するためのマーケティング・ツール開発を模索し始めるかもしれない。

「Voice(音声)」タブは、Amazon Music for Artists独自の主要機能の一つだと言えるだろう。このタブでは、アマゾンの音声インターフェイスを使用してアーティストの音楽を再生した時の「リクエスト」と「リクエスト者」のデータが表示されるようになっている。つまり、歌詞の照合機能の使用も含め、Alexaに、特定のアーティストまたは特定のアルバムや楽曲を再生するよう、明確にコマンドした人のデータを見られるということだ。

他にも、Alexaを通じた音声でのリクエストに関するアーティスト・パフォーマンスを、Amazon Musicにおいて同規模のオーディエンスを築いている他のミュージシャンのものと比較できる「Daily Voice Index」という機能もある。こちらは、「Cool」、「Warm」、「Hot」、「On Fire」の4つの指標があり、リクエスト数の熱量を表している。つまり、もし、熱量の低い指標評価を受けている場合、ソーシャル・メディアなどを通じて、Alexaで音楽を再生できることをファンにリマインドするなど、何らかのアクションが呼び起こされるようになるかもしれない。

現時点で、「Voice(音声)」タブでは、アーティスト固有でないリクエストによってAlexaに生じた再生数だ。例としては、「Alexa、ハッピーなインディーの曲を流して」のようなコマンドで流れた楽曲が挙げられるだろう。しかし、この機能は、アプリの将来的なアップデート内容に含まれてくる可能性が高い。リスナーが、Alexaに特定のアーティストを明確にコマンドする以外に、どういったコマンドやキーワードによってアーティストの楽曲が再生されやすくなっているかを把握することは、アーティストにとって非常に有益と言える。

最後の「Programming(プログラム)」タブでは、Amazon Musicのエディトリアル・プレイリストや「ステーション」で、どのようにアーティストが特集・掲載されているかを見ることができる。タップで、どの楽曲が掲載され、そこからどれくらい再生数を稼いでいるかといった情報の確認も可能だ。

アマゾンの音楽サービスは世界中の多くのアーティストにとってますます重要性を増してきており、今回の動きは、最初のステップに過ぎないものの、歓迎すべきと言えるだろう。

また、Amazon Musicの日本支社長であるレネ・ファスコ氏は、日本市場が急速に変化していると考えており、ブルームバーグに対して、ストリーミングの転換点が来ていると語っている。彼はインタビューで、「5年もかからないと思います。もしかしたら3年すらもかからないかもしれません」と語っている。

日本は米国に次いで、世界で二番目に大きな録音原盤市場だが、フィジカルからストリーミング
への移行が他国と比較して遅れ気味であることでも知られている。国際レコード産業連盟によると、2018年、日本の年間売上高28億7千万ドルにおいて、ストリーミングはわずか12.4%を占める形だった。

ファスコ氏はまた、2018年後半には、日本のベストセラー・アーティスト25組のうち20組がストリーミング・サービスに楽曲を解禁していなかったが、現在では「2、3組」程度になっていると指摘している。

また、同記事では、日本の4千人を対象とした2019年の調査を引用しており、日本最大の有料ストリーミング・サービスがアマゾンのPrime Musicであり、次いでApple Music、LINE MUSIC、Spotifyの順であることが示唆されている。