Spotifyが2020年第1四半期の決算報告書を発表した。Spotifyは2020年第1四半期の終わりまでに、前年同期比31%増となる有料加入者数1億3000万人を記録し、第1四半期のみで600万人の新規加入者を追加した。

 COVID-19の影響を受けた部分もある。「月間アクティブ・ユーザー数と加入者数は予測に沿う安定した推移を見せたものの、イタリアやスペインなど、感染拡大が深刻となった市場では、日間アクティブ・ユーザー数および消費量が著しく減少しました」とSpotifyは発表している。「しかし、ここ数週間で、リスニング時間は戻りつつあり、多くの市場で消費量が大幅に回復しています。」

 Spotifyは、日間アクティブユーザー数およびストリーミング再生数における減少が、月間アクティブ・ユーザー数や加入者数には影響を与えていないと強調している。

「事実、新規および再活性化された月間アクティブ・ユーザー数の両方が、主要市場において、ロックダウン期間中も大幅に成長しています。さらに、一部で消費量が変化したにも関わらず、2020年第1四半期における月間アクティブ・ユーザーに対する日間アクティブ・ユーザーの比率は好調でした。3月の後半では少し下落も見られましたが、今年の第1四半期における平均日間 / 月間アクティブ・ユーザー比は、2019年の同期間よりも高くなっています。」

また、Spotifyは、サービスを解約したユーザー数について、通常第1四半期には解約数が多めになることから、「予想通り」であったと述べている。

「四半期の終わりに、COVID-19感染拡大による影響(キャンセルおよび支払い不履行の控えめな増加)がわずかに見られましたが、報告された解約数にはほとんど影響がなく、着実な成長の傾向を見せています」とSpotifyは明かした。

「米国において我々が行なった出口調査では、回答者の約6人に1人が、COVID-19に関連する理由でアカウントを解約したと答えています。心強いことに、これら回答者の80%以上が、経済状況が改善されれば、サブスクリプションを再開する可能性が極めて高い、もしくは高いと回答しています。」

2020年第1四半期におけるSpotifyの売上高は、前年同期比22%増の18億5千万ユーロ(約2,152億7千万円)となった。いつも通り、売上高の大部分はサブスクリプションから生じている。有料プランからの売上高は23%成長の17億ユーロ(約1,977億6千万円)、広告の売上高は17%成長の1億4,800万ユーロ(約172億2千万円)となった。

驚くべきことではないが、Spotifyの広告ビジネスもCOVID-19の影響を受けており、その売上高は予想を下回った。Spotifyはこれに関して、「世界的な健康危機以前、我々は第1四半期の目標に到達、もしくは目標を上回る力強い立ち位置にありました。2019年末に実施してきた取り組みの多くが予想よりも早く実を結ぶ様相を呈し、売上高は予測を上回るスピードで伸びていました」と説明している。

「しかしながら、3月には、予約されていたビジネスがキャンセル、または一時停止となり、計画購入者が支出を削減したため、すべてのセールス・チャンネルで減速傾向が見られました。第1四半期の最後の3週間における広告サポート型の売上高は、結果として、予測レベルを20%以上下回りました。」

Spotifyの営業損失は、一年前が4,700万ユーロ(約54億7千万円)だったのに対し、2020年第一四半期には1,700万ユーロ(約19億8千万円)となった。さらに、昨年同期は純損失が1億4,200万ユーロ(約165億2千万円)だったのに対し、今年の第1四半期には100万ユーロ(約1億1,600万円)の純利益を出している。「金融収益」が700万ユーロ(約8億1,500万円)から7,000万ユーロ(約81億5千万円)に増加し、「財務費用」が1億300万ユーロ(約119億9千万円)から1,200万ユーロ(約14億円)へと大幅に減少したことが要因だ。

Spotifyのプレミアム・プランを利用しているユーザーあたりの平均売上高は、前四半期が4.65ユーロ、一年前が4.71ユーロだったのに対して、今四半期は4.42ユーロとなった。「全四半期からの長期間無料お試しプランの継続と今四半期における追加分」が主な理由だとSpotifyは述べている。

また、Spotifyは、年間の業績予想を下方修正している。以前の予想では今年の売上高を80億8千万~84億8千万ユーロ(約9,403億4千万〜9,866億5千万円)と見込んでいたところ、今回の予想では76億5千万~80億5千万ユーロ(約8,900億9千万円〜9,366億3千万円)にまで下げた。今年の終わりまでに、月間アクティブ・ユーザー数は3億2,800万~3億4,800万人、有料プラン加入者は1億4,300万~1億5,300万人になるとの予想だ。

Spotifyが最近追加した寄付先を掲載する新機能「Artist Fundraising Pick」に関しては、ローンチ初日だけで2万7千組以上のアーティストが利用を開始したという。

音楽再生習慣に関しても詳細が発表されている。「驚くべきことではありませんが、自動車、ウェアラブル、およびウェブ・プラットフォームにおける使用量は減少しています。しかしながら、テレビやゲーム・コンソールを介したオーディエンスは同時期に50%を超えて、大幅に増加しています。コネクテッド・デバイスの使用率は、広告サポート型を利用する世界中のユーザーの間で40%以上増加しました。」

他にも、ポッドキャストに関する統計も発表されている。Spotifyの月間アクティブ・ユーザー全体の中で、ポッドキャストを再生しているユーザーの割合は、2019年最終四半期に16%だったのが、今四半期は19%となった。つまり、約5,430万人がポッドキャストを再生している計算になる。現在Spotifyでは100万本を超えるポッドキャストが利用可能であり、そのうち60%はSpotifyが昨年買収したポッドキャスト作成アプリのAnchorによるコンテンツとなっている。

Spotifyの最新決算報告が発表された後で、Music AllyはSpotifyのCEOであるダニエル・エク氏に対して、インタビューを行なった。まず、新機能「Artist Fundraising Pick」について、永続的な機能になるのか、それとも、COVID-19による危機に対応する一時的なものなのかを尋ねたところ、エク氏は「アーティストからの肯定的な反応に圧倒されています。将来的な決定の参考にしたいと思います。」と語った。

ファンによる直接的な資金提供機能が、一般的なストリーミング・サービス、特にSpotifyでも大きな役割を果たしていない理由が存在するかどうかも質問した。エク氏は、大きな役割を果たせない理由はないと思うと述べている。「ストリーミングは、消費に関して、ほとんど画一的なアプローチを取ってきています。しかし、Spotifyの市場戦略の大部分を占める目標は、ファンとクリエイターをより有意義な方法で結びつけることです。今回の『Artist Fundraising Pick』の
ような機能は、その大部分を占め得る可能性があると思います。」

これまで、Spotifyの両面市場戦略は、主にレーベルとアーティスト・チームがSpotifyで音楽をマーケティングするためにお金を消費するという観点から語られてきた。今回の発表で興味深かったのは、数人のアナリストが、Spotifyにおけるファンによるアーティストへの直接的資金提供の長期的な可能性に関して質問を投げかけたことだ。

アナリストがそのような機能に潜在的可能性があると認識しているとすれば、それはミュージシャンに対する利他的な懸念ではなく、Spotifyの最終的な収益および投資家へのリターンの可能性を考えたものだと言えるだろう。そのため、Spotifyにとっては、「ウォールストリートの承認」と「アーティスト・フレンドリー」というチェックボックス両方を押さえたことになり、今後、こういった機能の可能性は高まると予測できる。

実際に機能が拡充されたとして、どれくらいのアーティストが使用するか、何人のファンが実際にお金をいくら支払うか、Bandcamp式の10%取り分などがSpotifyの売上高にどれほど貢献するかといった、適切に考え抜かれたファン・ファンディングおよび投げ銭エコノミーによる影響も気になるところだ。

また、エク氏は主にラジオ対ストリーミングを指しつつ、「リニア配信からオンデマンドへの移行」に関する持論を述べた。「外部のほとんどは、ストリーミング・サービス間の競争に焦点を当てていますが、我々は、リニア配信のラジオを聴いている何十億人ものユーザーにフォーカスを当て続けています」とエク氏は述べる。エク氏は「リニア配信のものは全て無くなる」とさえ発言していた(ただし、これはSpotifyの企業戦略における新しいスローガンというよりかは、2018年9月にCFOのバリー・マッカーシー氏が発言した内容を直接引用した言葉だ)。今回、エク氏は「COVID-19がもたらす危機により、リニア配信からオンデマンドに移行する傾向は加速する可能性がある」と主張している。

さらに、エク氏は、COVID-19のパンデミックの中で、Spotifyのフリーミアム・プランが不利ではなく、有利であるという考えも示している。プレミアム・プランのみ提供しているサービスへのサブスクリプションを解約して、Spotifyのフリーミアム・プランに登録する人が増えるかもしれないという見込んでいるという。