Spotifyが「2019年まとめ(Spotify Wrapped)」のデータとともに、新しい統計も発表した。Spotifyでは、2019年1月から10月末までに、120万組以上のアーティストの楽曲が、100時間以上再生されたという。また、16万9千組のアーティストの楽曲は、同期間で1万時間以上聴かれていたとのこと。

ここからは推測上の計算をしてみよう。1時間で再生できるのが平均15曲程度だとすると、2019年1月から10月末までにSpotifyで1,500回以上再生されたアーティストは120万組以上で、同期間15万回以上再生されたアーティストは16万9千組いたという計算になる。ミュージシャンであるZoë Keatingが最近発表したロイヤリティの数字「ストリーミング再生ごとに0.37セント(録音原盤のみで、ディストリビューターの手数料は除く)」を使用すると、120万組のアーティストの楽曲はSpotifyから録音原盤ロイヤリティを5.55ドル以上生み出しており、16万9千組のアーティストは555ドル以上生み出したと概算できる。

もちろん、これらの推測数字には意味はない。アーティストはレーベルやディストリビューターとあらゆる種類の契約を結んでおり、「555ドル以上生み出した」というカテゴリーは、最も人気のあるアーティストまで及ぶものであり、例えば、今年Post Maloneが叩き出したSpotify再生数65億回という数字は、555ドル程度では済まないレベルでロイヤリティを生んでいるはずだからだ。しかし、この推測のポイントとなるのは、「120万組以上のアーティストによる楽曲が100時間以上聴かれた」というのは大きい数字であるように思えるものの、掘り下げると、これらのアーティストの多くはSpotify、そして、一般的に言えばストリーミングから、非常に少ない額しか稼いでいないという事実だと言えるだろう。

Spotifyを批判するために指摘しているわけではないが、批判の立場をとる人も現れている。ツイッター上では、Spotifyユーザーがシェアした「2019年まとめ」のデータを引用リツイートすることで、そのユーザーが再生した時間が金額に換算した時にいくらになったかを知らせるためだけに、「Spotify Warped」というアカウントが作成されているとのこと。音楽ジャーナリストのイヴ・バーロウ氏も、Spotifyからのロイヤリティが低いことをツイッターで指摘し、議論を巻き起こしている。

Spotifyは、アーティストの収益に対する大局的な目標についてオープンに明かしてきていた。2018年に公開された目論見書では、「100万組のクリエイティブ・アーティストに、自身のアート作品から生計を立てる機会を与える」という旨が太文字で記載されている。その前に開催された投資家向け説明会では、Spotify CEOのダニエル・エク氏が、Spotifyのトップ層の(最大のストリーミング再生と収益を占める)アーティストが2015年の1万6千組から2017年には2万2千組まで増えたと語っている。「今後数年間の私の目標は、我々のプラットフォームで重要な成功を収めるクリエイターを数十万組まで増やすことです」とエク氏は述べている(ただし、一部のコメンテーターは、この目標を果たすために必要となる規模について疑問を呈している)。

理論的に、Spotifyから一年間(厳密にいうと10ヶ月間)で555ドル以上(しかも、ディストリビューターやレーベルが分け前を取る前の額で)稼いでいるアーティストが16万9千組しかおらず、そのうち物質的な富を得ていると思われる「トップ層」の数は不明となっており、2017年以降もその合計数が同じ割合で成長し続けているとすると、現在ではトップ層のアーティストは3万組程度まで増えていることになるが、これもやはり推測でしかない。しかし、Spotifyは、「両面市場」戦略でこの課題に取り組もうとしているようだ。

投資家的目線で考えると、「Spotifyはレーベルやアーティストに課金させ、マージンを改善して利益を上げるために、どんなツールをローンチするつもりだろうか?」というのが重要な質問だが、「100万組のクリエイティブ・アーテイストが自身のアート作品から生計を立てる」のを手伝うという目標はどうするのかということも同じく重要な質問だと言えるだろう。

オーガニックな成長や有料サブスクリプション登録者を増やすだけでなく、アーティスト・プロフィールからグッズやチケットを売るなど、アーティストが他の収益を促すためにストリーミングを利用するのを手助けする機能を提供すること、そして、ツアーを計画したり、シンクロ/ブランド収益を促進するためにアナリティクスを活用する方法を教え続けること、そして、ストリーミングの世界に、投げ銭エコノミーや、その他のファンによる資金を集める要素をどう組み込めるかを検討することなどが求められる。

Spotifyの「2019年まとめ」のプロモーションはSNSで広く拡散されているため、ロイヤリティ関連の反発が生まれることは避けられなかった。しかし、今回の件は、2020年に、あらゆるレベルのアーティストにとって、ストリーミングがどのように機能することができるか、また機能すべきかといったことに関する、思慮深く建設的な議論を推進するきっかけともなるだろう。Spotifyがこれまで通り、時には公平に、時には不公平に、こういった議論の避雷針となってしまうことは想像に難くない。しかし、「百万組のアーティストが音楽から生計を立てられるようにするにはどうするか?」という問題にSpotifyが取り組むのは、Spotifyにとっても健全なことであり、また、Spotifyが築き上げるのに大きく貢献した、ストリーミング・エコシステムにとっても健全なことであると言えるだろう。