テック×音楽のアクセラレーターであるTechstars Musicが主催する毎年恒例のDemo Dayが、今年はCOVID-19の影響を受けてオンラインで開催された。同イベントでは、音楽業界幹部や投資家の前で、スタートアップ企業が売り込みプレゼンテーションを行う。さらに、2021年のパートナー / 支援者には、Amazon Musicも加わることが発表された。

Strangeloop Studios

  Lil Miquelaなどのバーチャル・インフルエンサーや、初音ミク、Gorillazなどのアバター・アーティストからの論理的な次のステップとしての「独自のアイデンティティを持つオリジナルの音楽をベースとしたデジタル・キャラクター」として、バーチャル・アーティストの作成を行う。

 ただし、「音楽は全て100%人間の手によって制作されるため、バーチャル・キャラクターは既存のアーティストの競合となったり、存在を置き換えることにはならない」とCEOのイアン・サイモン氏は強調した。

 バーチャル・アーティストの利点として、「Strangeloop Studiosでは、通常の数分の一のコストで、プロモーション・アセットやミュージック・ビデオを制作できる」という。また、ファンが音楽制作に参加できるようにする計画も示唆しており、キャラクターは、Netflixの番組やビデオゲームに「簡単に移植」したり、グッズに印刷できるように設計されているとのこと。

Audigo

 音楽をレコーディングするプロセスに焦点を当てたスタートアップで、ハードウェア(キューブ型のワイヤレスマイク)、ソフトウェア(音楽レコーディング、コラボレーション、共有のためのスマートフォン・アプリ)、およびサービス(クラウド・プラットフォーム)を組み合わせた事業を展開する。

 ミュージシャンだけでなく、ポッドキャスターやビデオ・クリエイターも対象としており、アプリはオーディオだけでなく、動画の撮影にも使用可能だという。CEOのアーメン・ナザリアン氏は「配線なし、手動のデータ転送なし、ラップトップなし」を強調している。

 Audigoはサブスクリプション・モデルを採用しており、月額20ドルでマイク、アプリへのアクセス、100GBのクラウド・ストレージを使用可能になる(最初の6ヶ月間分はまとめて先払いとなるとのこと)。月額35ドルのペア・プランでは、2本目のマイクが追加され、ストレージも250GBまで増える。4本のマイクと500GBのストレージが利用可能なスタジオ・プランも今後用意されるとのこと。

Entertainment Intelligence

 「皆のデータを無料で保管する」ことを約束するアナリティクス・プラットフォーム。例えば、「過去3ヶ月間にロサンゼルスで最もエンゲージメントの高いオーディエンスが付いているヒップホップ・シングル」を調べるなど、細密化が鍵であるとCEOのグレッグ・デラニー氏は説明する。

 「Entertainment Intelligence では、データを直接取得し、リスナーの年齢や性別、位置情報、デバイス、プレイリストなど全ての詳細を得ます」とデラニー氏は述べており、SpotifyやApple Music、Deezer、Pandora、Amazon Music、YouTubeなどのDSPを挙げた。

 現在は米国市場の4%を占める1日2億回のストリーミング再生数を追跡しており、20%までその数字を伸ばすことを目標としているとのこと。目標を達成するために、データ管理は無料で提供するが、サブスクリプション製品やコンサル、および、独自のツールでデータを使用することを望む企業向けのAPIから収益化を図るという。

Elastic Audio

 Unreal EngineやUnityなどのゲーム・エンジンでオーディオを作成するプロセスを効率化する。CEOのアンドリュー・ベック氏は、現在様々なデバイスで機能するビジュアル・アセット(グラフィック)を作成するのは簡単だが、サウンドを作成するのははるかに複雑で時間がかかると主張する。オーディオ設計者は「数百時間」を浪費しており、「オーディオ・システムは全てのプラットフォームに適合させる必要がある」とベック氏は示唆する。

 Elastic Audioのテクノロジーは、プラグインを介して、様々なプラットフォームに挿入され、「オーディオ・デザイナーの数百時間を節約し、新しい収入源を提供する」ことを約束している。この技術は、「プロジェクトにサウンドを組み込む必要があるものの、どこから始めれば良いかわからないという、ゲーム外のプロやデジタル・クリエイター」も使用可能だという。

Fanaply
 アーティストに基づく、「デジタルのグッズ・コレクション」を作成する。CEOのグラント・デクスター氏は、フィジカルの収集グッズ業界は年間2,000億ドルの価値があると述べており、これのデジタル版に焦点を当てるという。

 「これまでのところ、これらのバーチャル・グッズのほとんどは、ビデオ・ゲームなどの閉ざされたエコシステムで販売されていますが、ファンの行動はいたるところにあります。Fanaplyはビデオ・ゲームの仕組みを、スポーツ、エンターテインメント、音楽周りに存在している、現在収益化されておらず、まとまりがない状態となっているファンの行動に当てはめます。」

 背後にはブロックチェーン技術が活用されている。これらのデジタル・アセットは全て「トークン化」されているため、流通市場で転売可能であり、Fanaplyとアーティストを含むパートナーは、これらの売買取引情報を得ることができるとのこと。

Ulo

 「短い形式の没入型体験のためのグローバル・プラットフォーム」を構築する。音楽アーティストやブランドと協力してこれらの体験を作成し、ファンが体験するためにお金を支払う形式になるという。また、スマートフォンでより多くのユーザーが体験できるデジタル版も作成予定とのこと。

 チケットやグッズ売上の取り分から収益化を図り、アーティストには前払いか、収益分配取引を行う。また、ブランドとのパートナーシップや、Uloシステムを購入して、コンテンツに定期的な料金を支払うビジネス(ホテル・チェーンやエンターテインメント・センターなど)からの収益も見込んでいるとのこと。

 2021年のローンチに向けて準備を進めており、アーティスト
を中心としたテスト・ローンチのために、メジャー・レーベルと交渉中だという。

TribeXR

 Twitchにも配信可能な、VRのDJトレーニング・ソフトウェアで、将来的にはDJ以外のクリエイティブな分野にも拡張することを視野に入れている。CEOのトム・インパロメニ氏は、TribeXRについて、DJを始めとした「クリエイティブなスキルを学び、実践することを容易にするプラットフォーム」だと説明する。

 ユーザーは、VRヘッドセットを装着し、仮想デッキのセットでミックスの方法を学ぶ。TribeXRは、プロのDJがライブ・パフォーマンスの準備に使用することも可能だという。

 TribeXRは現在、月に3万ドル(約322万円)の収益を生み出しており、製品へのサブスクリプション要素追加により、今年末までに、年間100万ドル(約1億724万円)のランレートに到達することを目標としている。現在すでに1万6千人以上がTribeXRを使用しているとのこと。

Splashmob 

 アーティストがコンサート中にファンのスマートフォンをコントロールし、光のショーを生み出したり、アンケートを取ったり、グッズを販売したり、ステージから動画をストリーミングできるようにする。

 CEOのブレーズ・トーマス氏は、Splashmobの技術では、ファンに特定のアプリをダウンロードさせることなく、モバイル・ウェブサイトを通じて、コンサート中に、ファンのスマートフォンのカメラやスピーカーにもアクセスできると説明している。ファンの許可を得れば、データをキャプチャすることもでき、ファンにアンケートを取ったり、ストリーミング・サービスやSNSでアーティストをフォローするよう誘導したり、ライブのビジュアル要素や、ファン自身のカメラと組み合わせたり、といったことも可能だ。

 アーティストやイベント・プロデューサーは、Splashmobのビジュアル・エディターを利用して、これらをまとめ、各機能である「ドロップレット」のシステムを使用してパフォーマンス向けに全てを用意できるようになっている。今後、3Dビジュアルや、歌詞、AR、チャット、ゲーム、デジタル・グッズなど、さらなるドロップレットを追加する予定だという。

 ホワイトレーベル型の製品は、アーティストが10個のドロップレットを使用可能で、10人のオーディエンスと繋がれるベーシック・プランが無料となっている。月額10ドルで50個のドロップレット、200人との接続、月額100ドルで両方を1000個まで増やすことができる。また、その上には、「無制限」の企業向けプランも用意されているとのこと。

Fansifter

 アーティスト、レーベル、コンサート・プロモーターからのデータを一箇所にまとめたファンデータ管理プラットフォーム。CEOのアイヴァー・ラーン氏は、バンド、レーベル、プロモーターはこのデータを使用して、マーケティング・キャンペーンを改善することができると説明しており、データは最終的にブランドにとっても役立つ可能性があると語った。

 「例えば、90年代のインディー・ロックを愛し、昨年3つ以上のライブに足を運んでおり、子供と一緒にCardi Bの音楽も聴くという父親をターゲットとした、動画広告を打ちたい自動車会社を想像してみてください」とラーン氏は言う。

 Fansifterは、この手のターゲティングを実行するために必要なデータの中央収納場所であり、データの元の所有者は収益の一部の受け取りが可能であり、実際のファンデータがブランドに共有されることは決して無いとのこと。

Delta AI

 クリエイターがブランドや著作権で保護された音楽とどのように関わっているかを理解するため、ハッシュタグやキーワードだけでなく、コンピューター・ビジョンを利用してソーシャル・ビデオを分析する。

 「マーケティング・チームは、動画内で何が起きているかを見ることができません。つまり、トレンドの正確な追跡や、オーディエンスが彼らのプロダクトとどのように関わっているかを知ることができないということです。また、著作権保有者は、著作権で保護されたコンテンツが様々なプラットフォーム上にどれくらい存在するか、実際の量を知りません。」とCEOのティファニー・グアン氏は説明する。

 Delta AIの技術では、「ソーシャル動画を大規模にモニタリングして理解することができます。コンピュータ・ビジョンを使用することにより、オーディエンスがブランド・ロゴやプロダクト、キャラクターにどのようなエンゲージメントを示しているか、どんな動画でも確認できます」とのこと。TikTokのダンス・チャレンジのように、人間の動きを追跡することも可能だと言う。

 現在、TikTok、YouTube、Trillerなどを含むプラットフォームを分析しており、クライアントが追跡を希望する著作権アセット数およびプラットフォーム数に基づいて、段階型の月額サブスクリプションを用意する予定とのこと。また、データ・アクセスのために、これら動画プラットフォームとも提携予定だという。