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先日、ソニーミュージックが、イギリスの独立系音楽出版大手のKobaltから、インディーアーティストのディストリビューターAWALを買収したニュースは、世界中の業界関係者に驚きを与えました。ソニーミュージックがAWAL獲得に支払った額は4億3000万ドル、日本円にして約450億円。

AWALは今後、ソニーミュージック内で、The Orchardと並ぶポジションで活動を続けていくはずですが、The Orchardの「テクノロジーとネットワークによって強化される」と発表されています。AWALは引き続きCEOのロニー・オリニックが指揮を取ります。

業界関係者なら、今回の買収劇で、気になる疑問が幾つもあります。まずは、Kobaltは今後どうなるのか? Kobaltはすでに、音楽出版ビジネスに注力すると発表をしています。コアとなる事業は、既存の出版ビジネス、著作権ビジネスでの投資部門であるKobalt Capital、そして著作権徴収サービスのAmraになっていきます。

Kobaltにとって、戦略の集中になります。近年、KobaltはAWALの戦略的重要性を語ってきましたが、今回の買収は、Kobaltにとって事業の焦点をより明確にするチャンスでもあります。とは言え、Kobaltが今後音楽出版社として続くのであれば、同社が次の買収の有力候補になる可能性も高まります。

さらに、ここで大きな疑問です。AWALの未来はどうなるのか? ソニーミュージックのリソースと、グローバルなネットワーク(The Orchardも含めて)は、AWALと契約するアーティストにとって強力な武器になることは間違いありません。

最初の課題の一つは、AWALが維持してきた「独立性」に共感して共に歩んできたアーティストやスタッフとの関係を、ソニーミュージックというメジャー大企業との統合で生まれる混乱の中で、上手く舵取りすることでしょう。少なくとも、The Orchardという企業とスタッフは、すでにこの課題に対処するための教訓を学んできているはずです。

2017年6月、ソニーミュージックはThe OrchardとREDという巨大ディストリビューターの統合を行いました。このケースと似たように、中長期的に考えて、The OrchardとAWALという、2つのディストリビューターが合併する運命にあるのかどうかを考えるのも一理あります。あるいは、AWALの未来は、ソニーミュージックの中でのレーベルブランドとしての役割を果たすことかもしれません。AWALのアプローチと仕組みは従来、単なるディストリビューターとは一線を画するものでした。

今回の買収における最大の疑問。それは、「インディーズ」の未来はどうなるのか?ということでしょう。ソニーミュージックUKのCEOで会長のジェイソン・アイリーは最近、イギリスの議会で行われた、音楽ストリーミング経済に関する審議会に呼ばれ、「ソニーミュージックと契約したくない場合、アーティストには選択肢があります。収益を増やしたい場合、ディストリビューターと契約ができます」と証言したのが、AWALの買収直前だったタイミングを考えると、彼の発言は皮肉に満ちています。

イギリスのインディーレーベルの業界団体AIMのCEO、ポール・パシフィコは先日、「AWALのソニーミュージックへの売却は、インディペンデント・アーティストのコミュニティが生み出した驚異的な市場価値の大きさを浮き彫りにしただけでなく、メジャーレコード会社が買収戦略によって市場シェアを拡大しようとし続けている動きを示しています」とコメントをだしています。

メジャーレコード会社のインディーズに対する執心が、次にどのサービスに向かうかは、重要な論点です。そして、未だ独立した企業である、DistroKid、Ditto、SoundCloudさえも、見ている先はメジャーか、(FUGA、CD Baby、Songtrust、先日買収されたFound.eeなどを傘下に持つ) Downtown Musicに代表される「スーパーインディーズ」音楽企業であることに間違いないでしょう。

一方、アーティストたちは、前述のアイリーが指摘したように、自分たちの音楽を市場に配信するための選択肢が以前よりも多く持てるようになったことは、大きな変化です。しかし、業界の再編が進む中、アーティストの選択肢も今後、縮小するか、または大手権利者グループの所有に変わる可能性も高まってきました。

アーティストが自ら権利を所有することを最重要とする、独立性のあるディストリビューションの原則が生き残る限り、今の業界の動きには当てはまらないはずです。

実際、音楽ディストリビューターがメジャーレコード会社のビジネスで、戦略的に重要なポジションを占めるようになれば、このディストリビューションの原則が崩壊へ進むのではなく、ディストリビューターによってレーベル内でより柔軟で広範な契約文化が拡がる原動力となる可能性があるという議論も続いていくでしょう。