フォロワー数が2,860万人を超える「Today’s Top Hits」は、Spotify最大のプレイリストです。Spotifyによれば、このプレイリストではこれまでに600以上のアーティストが展開されて、再生時間は14億時間以上、再生回数は273億回以上に達しています。

先日、Spotifyは「Today’s Top Hits」を新しいデザインへのリブランディングを行いました。ビジュアルデザインも今までの「Today’s Top Hits」から「TTH」の頭文字の使用を増やし、Billie EilishやTravis Scott、Dua Lipa、Bad Bunny、Blackpinkが登場する動画コンテンツも制作しました。

Music Allyでは、Spotifyでグローバルヒット部門の責任者であるネッド・モナハンに、「Today’s Top Hits」リブランディングについてインタビュー取材を行いました。モナハンは、Spotifyのチームがどのように「Today’s Top Hits」をキュレーションしているか、Spotifyがプレイリストの編成で、どのように世界的スターアーティストと新人アーティストや若手アーティストのバランスを取っているのかについて語ってくれました。

今回のリブランディングについて、モナハンは「Spotify最大かつ最も世界規模なグローバルプレイリストである『TTH』を、当社のグローバルミュージックブランドとして位置付ける機会でした」と語りました。

「リブランディングは、Spotify内の異なるチームが協力した、部門横断型な共同作業となりました。マーケティング、ソーシャル、ブランディング・クリエイティブ、アーティスト&レーベル・パートナーシップ、パーソナリゼーション、コンテンツ・プロモーションなど、Spotifyのあらゆるチームがこのリブランディングに関わっています」と述べています。

モナハンの説明から、ストリーミングサービスにとって重要なプレイリストに変更を加えることが、いかに大規模でセンシティブな変更であるかを示しています。モナハンによれば、今回のリブランディングを行った背景には、「Today’s Top Hits」に対する外部からの評価を重要視したことを強調しました。

「このリブランディングを行った後も、キュレーションやプレイリストに入れる楽曲の種類は何も変わりません。それよりも、外部に向けた音楽のストーリーを伝えることを私たちは重視しています」

TTH選曲の基準とは?

ユーザー視点で見ると、現状のヒット曲を紹介するプレイリストをキュレーションすることは、簡単な仕事にも見えてきます。上位50曲のデータを集め、プレイリストを作れば仕事は完了です。しかし、Spotifyはトップ50のグローバルチャートをすでに運営しており、これは事実上のプレイリストとも捉えることができます。

最近の「Today’s Top Hits」とグローバルチャートを比べて見ると、Olivia Rodrigo、Rauw Alejandro、Lil Nas X、Bad Bunny、Doja Cat、SZA、BTS、Dua Lipa、Justin Bieberの最新曲が、両方のトップ10に入っています。

モナハンは「Today’s Top Hits」のキュレーションの裏側にある、編成プロセスを説明してくれました。プレイリストの主な更新日は毎週木曜日ですが、「曲がリリースされて期待値を超えた場合」は、曲が追加されることもあります。メジャーアップデートの間に曲順の調整が行われます。

「週の始めには、その週の終わりに追加するかもしれない曲が3、4曲あるかもしれません。会議や議論を経て、曲の進化やパフォーマンスを見ていくと、全く別の曲のプレイリストになる可能性もあります」

プレイリスト・キュレーターが注視する要素

再生数以外の要因は、どれほど影響するのでしょうか?「オーガニックな消費傾向が重要な要素の一つです。私たちは、Spotifyの内だけでなく、プラットフォームの外も見て、楽曲に対する需要の高まりが存在するかどうかを見ています。同じジャンルの曲同士のパフォーマンスを比較して、どれほどの規模なのかも見ています」とモナハンは述べています。

「音楽の文化的な関連性も非常に重要です。プレイリストは文化的な会話を反映したり、促進することが重要だからです。場合によって、パフォーマンスが低い曲や、ヒット曲として巨大でない曲も含まれますが、それらが文化を反映していることに編成チームが可能性に賭けてみることもあります」

「別の判断材料では、Spotifyの他のプレイリストで楽曲がどのように再生されているかのパフォーマンスも大きな要因です。特にSpotifyが『TTHでの再生傾向と密接な相互関係にある』と見なすプレイリストでのパフォーマンスを見ています」

またリリーススケジュールも、プレイリストに追加される曲を左右する要素です。「ある週に世界的スターアーティストがリリースする大ヒット週があれば、TTHは主に大物アーティストの曲が追加されます」とモナハンは述べています。

「一方で、ある週はスターアーティストのリリースが少ない場合、新人や若手アーティストがプレイリストに追加されます。The WeekndやDua Lipaのようなスーパースターと、Kid LaroiやZoe Weesのような若手アーティストが隣り合わせに並ぶのが、TTHの魅力です」

「ブレイクスルー」を促進するプレイリストの役割

Spotifyが「Today’s Top Hits」を大ヒット曲やメジャーのスターアーティストを反映したプレイリストではなく、新人アーティストをブレイクさせるプレイリストだと意気込んでいるのには、意外と感じる人も少なくないはずです。しかしモナハンは、「ブレイクスルー」という点を強調します。

モナハンは「Today’s Top Hits」で追加されたTate McRaeを例に説明します。彼女はシングル「you broke me first」がブレイクのきっかけとなり、Spotifyのポップ系プレイリストで高いパフォーマンスを示した結果、2020年7月には「Today’s Top Hits」に追加されました。

「TTHに追加後、『you broke me first』のパフォーマンスは7月から8月にかけて前月比73%増加し、8月も91%増の成長が続きました。9月にはTTHからの再生が2倍以上の137%増となり、高い結果を維持しています」とモナハンは説明します。

「(取材時)この曲は今、6億3000万回以上の再生数があります(現在は6億6500万回)。リリースは2020年4月ですが、再生数がピークに達したのは10月でした。毎日の再生数が約290万回というピークに上がるまで、半年を要したのです」

「楽曲の成長や、アーティストがオーディエンスを構築しているその道のりには、目をみはるものが幾つもあります。特別な何かを感じる曲が出てきます。曲がリリースされた速い段階で注目するアーティストもいます。Tate M
cRaeの発見では功を奏し、彼女がSpotifyでオーディエンスを獲得していく過程を助けることができました」と述べます。

「全ての曲が必ずしも、最大の効果が得られるとは限りません。しかし肝心なのは、TTHに追加されることで、アーティストがより多くの人にリーチするチャンスを得られることです」

ヒット曲を巨大化するプレイリスト

曲の成長に時間を要する、という考え方は、音楽ストリーミング時代の常識です。Dua Lipaの「Levitating」が最たる例です。

DaBabyを起用したリミックスは、リリース直後は再生数の獲得に時間を要しました。そのためSpotifyはリリース週に「Today’s Top Hits」に追加しませんでした。しかし、他のプレイリストで成長し好調な推移が見られると、TTHに追加されました。

「この曲は、2つまたは3つのピークが別々にあります。どんどん伸びましたが、また少し落ちて、また大きなピークに達し、また落ちて、再び伸び始めます。Dua Lipaのような大物アーティストであっても、曲は一貫性ある成長の場合があります。さまざまな文脈に曲が置かれ続けることで、サイクルが続くのです」とモナハンは曲の成長をこう語ります。

「オリビア・ロドリゴの『drivers license』のように、リリース直後からすぐに巨大化する曲もあります。『drivers license』は最初の数週間で、これまでのどの曲よりも大きく成長しました。最初のストリーミング期間が巨大でしたが、その後徐々に再生数は減少していきます。現在の曲が辿る道のりは様々なのです」

「Today’s Top Hits」のようなプレイリストを聴く文化は、どのように変化しているのでしょうか?一般的には「TTH」ではヒット曲が上位に並びます。同じジャンルの曲や、何か強烈なストーリー性のある流れを作るために選曲されているわけではありません。それでも聴き方はリニア (連続する)な再生になります。

TTHは、スキップして自分の好きな特定のアーティストや曲を保存するためのプレイリストではありません。人々がアプリを開いて毎回チェックして、そのまま再生できるプレイリストです」とモナハンは述べます。

「データを見ると、一番上に追加された曲が最も再生されるのが分かります。私たちは、人々が聴きたいと思うようなヒット曲を上位に置くようにしています。人はこのプレイリストを再生するだけでなく、新しい発見をしているのです」

人気曲ばかりを繰り返し再生するラジオのような伝統的なフォーマットとは異なる点もあると、モナハンは語ります。

「プレイリストの上位には新しい曲が並びますが、昔にリリースされた曲も多くあります。新曲とリリース後時間が経過した曲が混在しています。チャート系ラジオと比較すると、編成の速度が違います。私たちが注目した若手アーティストの曲を『Today’s Top Hits』に6−9カ月追加した結果、プレイリストから外れる頃にラジオでピークを迎えていることがよくありますね」