この記事は、アーティストが実践するデジタル戦略やストリーミング戦略を分析した、Music Ally Japanオリジナル記事シリーズです。第三弾の本記事では、ボカロPや歌い手出身のアーティストたちに焦点をあて、プラットフォーム運用の重要性を考えていきます。


 

米津玄師、YOASOBI、ヨルシカ。いまやメインストリームの音楽シーンを席巻しているボカロP/歌い手出身のアーティストたち。デビュー初期からオンラインを主戦場としてきただけに、SNSプロモーションや、動画配信プラットフォームの活用においても「デジタル化」が進んでいます。ここでのデジタル活用とは、クリエイティブな作業からコラボレーション、生配信、ファンとのコミュニケーション、UGCコンテンツの創出までがデジタルプラットフォーム中心で一貫して行われ、音楽活動に繋げているのが特徴の一つです。

音楽業界では、動画プラットフォームとの向き合い方に変化が生まれ始めています。パンデミックの影響による試行錯誤が理由とも言えますが、動画のヒントをボカロP/歌い手出身のアーティストやVOCALOIDシーンのクリエイターの成功から探ろう、という声が頻繁に聞こえてきます。

コロナ禍でも成功し続けているアーティストやクリエイターの共通点の一つは、動画プラットフォーム運用という視点です。音楽活動やプロモーション戦略の中心に動画を置くだけでなく、リアルタイム性と高サイクルの更新頻度によるプラットフォーム運用で、音楽や動画をより多くの人に届けています。そうした手法を詳しく見ると、旧態な音楽業界では類を見ない取り組みで成功してきたアーティストが多数いることが分かります。

いま、最も注目を集めるシンガーの一人、と言っても過言ではないAdoは、2020年10月に「うっせぇわ」でメジャーデビューして以降、オリジナル曲のプロモーションのみに集中するのではなく、人気VOCALOID楽曲の「歌ってみた」動画を公開する活動を続けています。メジャーアーティストが「歌ってみた」動画制作を活動の中心に置くことは、新曲のプロモーションに集中したい業界従来の常識を覆していると言えます。

UGCコンテンツ(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)は、アーティストにとって新たなファンを継続的に生み出す装置です。そして、オリジナル楽曲の視聴時間や再生数を加速させる重要な取り組みです。多様なクリエイターの楽曲を自由に表現するUGCコンテンツは、変幻自在の歌唱力を持つAdoの魅力と音楽性をより広く多くの人に伝える大きな武器になっています。

Adoの動画戦略においてもう一つ重要な活動は、度々開催される「生配信」です。顔出し一切無し。謎に包まれたパーソナリティの側面を伝える方法として、生配信はエンゲージメントを高める形式です。1stアルバム『狂言』のリリースプロモーションでは、タイトルに合わせて人気お笑いコンビ・すゑひろがりずを司会に招いた特番も配信し、大きな話題になりました。

Adoはゲーム実況などコアな配信は、ニコニコ動画内のクローズドな有料チャンネル「Adoのドキドキ実況」で配信。広く一般に訴える配信はYouTubeで配信。動画によってプラットフォームを使い分けます。長引くコロナ禍での生活によって、ライブやイベントなどファンと直接触れ合う機会が失われた現状でも、プラットフォームとコンテンツ、配信フォーマットを組み合わせ併用することで、複数のレイヤーから視聴者やファンとのエンゲージメントを高めることに成功してきました。

そんなAdoも崇拝する歌い手出身のスーパースター・まふまふも、現在に至るまで「歌ってみた」としてVOCALOIDシーンの人気楽曲を歌い続け、巨大なファンダムをより堅固に広げ、YouTubeを舞台に新たな挑戦を続けている一人。2021年5月には、コロナ禍の最中、東京ドームからの無観客公演「ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2021@東京ドーム」をYouTubeで生配信。視聴回数は520万回を突破する成功を達成しました。

同年の大晦日には『NHK紅白歌合戦』に初出場しましたが、注目が集まる番組であっても、自身のオリジナル楽曲ではなく、人気ボカロPのカンザキイオリの代表曲「命に嫌われている。」を披露。多くの歌い手が「歌ってみた」カバー動画を投稿しており、まふまふによる同曲の「歌ってみた」動画は、YouTube上で実に1億2000万再生を超えるメガヒットとなりました。UGCコンテンツの文脈から生まれた同曲は、自分たちのルーツであり代表作のひとつなのだ、という”歌い手の矜持”を感じさせる歌唱に、ファンが喝采を送ったのは記憶に新しいところです。

コロナ禍で、YouTubeやTikTokで突出したバズを起こし、ブレイクを果たすアーティストも次々と増えています。音楽だけでなく、マンガからアニメーション、バーチャルYouTuberまで、マルチエンターテイナーとして活動してきたP丸様は2021年、高い中毒性を持った楽曲「シル・ヴ・プレジデント」がTikTokでヒットコンテンツとなりました。UGC動画によるバイラルヒットが始まったこの流れを、より一般層の認知まで拡大させたのは、YouTubeで投稿された関連動画です。同曲を使ったUGC動画はYouTube内でもトレンド化。カバー動画をやダンス動画を投稿するYouTuberが大挙して現れました。その中では、芸能系YouTubeチャンネルのトップランナー「ジャにのちゃんねる」で、二宮和也、中丸雄一、山田涼介、菊池風磨のメンバーそれぞれが自身のチャンネルの総再生回数1億回突破を祝うYouTubeショート動画を投稿して、キュートなダンスを披露するなど、人気チャンネルのクリエイターによる投稿は現在も続いており、楽曲のリーチ拡散に寄与しています。

 

現役トップクリエイターに聞く動画プラットフォーム活用法

日本の音楽に多大な影響を与えてきた動画配信。その流れをいち早く取り入れてきたVOCALOIDシーンとUGCコンテンツ。それらの歴史を簡約して振り返ると、2つのプラットフォームの存在がくっきりと見えてきます。一つ目の出来事は、「初音ミク」が誕生した2007年以降、ボカロP/歌い手の主要な活動の場となり、人気クリエイターを数多く輩出してきたのは、UGCコンテンツを作りたいユーザーと極めて相性が良いニコニコ動画の台頭。そして次の出来事は、2016〜2017年頃にかけて、圧倒的なユーザー数と拡散力を持つグローバルプラットフォームのYouTubeに動画クリエイターが大挙して集まり、チャンネルが急増したことでした。

それ以降、ニコニコ動画で活動するクリエイターからもYouTubeに移動する人がいたり、ニコニコ動画とYouTubeを並行活用する人や、YouTubeネイティブなクリエイターも多数生まれています。

実際にVOCALOIDシーンのクリエイターは、YouTubeの活用をどのように考えているのでしょうか。2014年にニコニコ動画で活動を開始し、現在はYouTubeを併用している人気ボカロP・はるまきごはんさんに聞いてみました。

はるまきごはんさんは、YouTubeで楽曲が聴かれるようになった背景を「海外のVOCALOIDファンに作品が届きやすくなったから」と語ります。

「個人差はあると思いますが、自分はYouTubeの視聴者の半分かそれ以上が海外ユーザーです。VOCALOIDシーンがこの数年盛り上がっていると言われていますが、要因のひとつは、YouTubeで海外の人がリアルタイムにVOCALOID楽曲を追いかけられるようになったからだと思います」

クリエイター的、ビジネス的な側面から見ると、巨大なグローバルマーケットに楽曲を届けられるYouTubeのリーチ力は、VOCALOIDやUGCコンテンツでも同じ効果が期待できると言えます。

また、はるまきごはんさんは、ユーザー目線からニコニコ動画とYouTubeの特徴を分析。ユーザービリティの違いを次のように語ってくれました。

「ニコ動はランキングやタグから音楽を見つけることができるので、YouTubeよりも新しい音楽を能動的に探す人に向いていると思います。一方、YouTubeは、自分が何かアクションを起こさなくても、アルゴリズムが延々と音楽を流してくれます。ニコ動に比べて受動的に楽しめる動画サイトだと思います。自分は、VOCALOID楽曲の場合、ニコ動は新しい曲を見つける場所、YouTubeは好きな曲を聴く場所という風に棲み分けています」

自分から「好きな情報」を取りに行くための指針を提示してくれるニコニコ動画。高精度のレコメンドで「好きそうな情報」を提供し続けてくれるYouTube。お互い違った魅力や、活用の際のメリットがあるだけに、多くのクリエイターが併用することもうなずけます。

音楽業界にとって、これは何を意味するのでしょうか?確実に言えることは、YouTubeをMVや動画を置くだけの場所という認識を止め、プラットフォームとしての付き合い方を考えなければならない、ということです。音楽業界がボカロPやVOCALOIDシーン出身のアーティストの成功から学べるヒントは多くあります。

かつて、極めて多くのユーザーを抱え、視聴者が受動的でいられるプラットフォームの代表は、テレビでした。しかしテレビのような旧態然のメディアから視聴率やリーチ力が失われていく中、音楽活動をスケールさせたいアーティストやクリエイターにとって、YouTubeがその巨大なユーザー層へのリーチ力、潜在的な視聴者や未来のファンを掘り起こせる場所として欠かせないプラットフォームとなりました。能動的または受動的な情報との接し方でプラットフォームを選ぶことも、アーティスト戦略の一つと言えます。

ポスト・コロナ時代の社会情勢から考えられるのは、新世代のアーティストやクリエイターは、ライブハウスよりもライブ配信、スタジオセッションよりもSNS上の交流、といったように、オンライン空間から生まれてくる可能性がさらに高まります。こうした人たちが選ぶ場所、そしてファンが集まる場所として動画プラットフォームが選ばれ、優れた楽曲とコンテンツで継続的に話題を呼んでいく流れは今後も加速していきそうです。

 

執筆:Music Ally Japan、編集:ジェイ・コウガミ

Supported by YouTube Japan ミュージックチーム