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ソニーミュージックは2021年2月、イギリスを拠点にするディストリビューターでレーベルサービスの「AWAL」買収を決めました。しかし、同年5月にAWAL買収が完了したタイミングで、ソニーミュージックの取引は市場競争に害を及ぼす可能性を呼び、政府機関による調査が進められてきました。そして先日、イギリス政府の競争・市場庁(CMA)は、この取引を暫定的に承認しました。

調査を行ったCMAは、声明文で「注力する領域が異なるため現在は厳密な競合相手ではありませんが、The Orchardは将来的にアーティストサービスの提供においてAWALの競合相手となる可能性があることを、CMAは暫定的に認識しています。しかし、独立系アーティスト・レーベル・サービス企業や、(ワーナーミュージックのADAやユニバーサルミュージック・グループのVirgin Musicなど)メジャーレーベルが運営するアーティスト・レーベル・サービス事業、独立系レーベルなど、市場には多くのサービス・プロバイダーが存在しており、The OrchardとAWALと事実上競争し続けます」と、インディペンデント音楽市場向けのサービスが多数存在している現状から、競争が保たれることを示しています。

CMAは、9月に調査の第一段階を終えました。その際には、ソニーミュージックに対して買収が「音楽市場の公平な競争を阻害する可能性があり、イギリス国内のアーティストに関する取引状況を悪化させ、業界間のイノベーションの促進を遅らせる恐れがある」との見解を示しました。これを踏まえて9月には調査が第二段階に入りました。

ソニーミュージックは、CMAの見解に対して「AWAL買収は競争力を促進する」として反論しており、「業界リーダーのユニバーサルミュージックや、ワーナーミュージック、同社が提供するアーティストサービスやDIYサービスを含めた多数の企業との競争を高めるため」と主張していました。

興味深いのは、提出された書類で示されたAWALに対するソニーミュージックの見解です。ソニーミュージックによれば「AWALは重要な企業ではなく、利益が出ておらず、特別な機能を有していません。(中略)20年以上に及ぶ事業で、AWALはデジタル音楽ディストリビューションの革新的企業でも、SME及びThe Orchardの直接的脅威ではなく、そのの重要性は衰えようとしていました」と説明しています。さもAWALの買収は、小さなサービスを取り込むことと同じで、市場の競争原理には影響が及ばないと主張しているようです。ソニーミュージックの書類はこちらでご覧頂けます

AWAL買収には、業界団体も懸念を示してきました。ヨーロッパでインディペンデントなレーベルや企業を代表する業界団体の「IMPALA」は、ソニーミュージックのAWAL買収への反論を述べています。「(買収で)ソニーミュージックが得る市場シェアは少ないかもしれません。しかし、インディペンデントな音楽市場の成長と、Merlinを通じたデジタルライセンスの交渉にとっては重大な損失です」

そして2回目の調査を終えて、CMAはソニーミュージックの主張を肯定する見解を下しました。

ソニーミュージックにとって、今回のCMAの承認でAWAL買収が一歩進んだことを意味します。「ソニーミュージックは、AWAL買収は市場競争の利害関係を損ねるものではなく、その過程におけるイギリス音楽市場の競争と動的な性質を認識したCMAの暫定的な決定を歓迎します」

「私たちのAWALへの投資は、音楽業界のあらゆるレベルの競争の最中、アーティストと消費者に本質的な恩恵をもたらします。審査の最終段階に向けて、引き続きCMAと連携していきます」

前述のIMPALAは、このCMAの承認に対する見解を後日、正式に発表する予定です。IMPALAのスタンスは前述と変わらず、AWAL買収には反対する立場で、音楽市場の競争、アーティスト、インディペンデントな音楽企業やアーティスト、消費者に対してネガティブな影響を与えるとの見方を強めています。

イギリスのインディペンデントな音楽企業の業界団体「AIM」(Association of Independent Music)は、「CMAはAWAL買収が競争を妨げないという判断を下しましたが、これはインディペンデントな起業家が資金援助を必要とする際の競争と多様性をイギリス音楽内で徐々に低下させるパターンの一端です」とこの決定に反論しています。

今回のCMAの見解は暫定的承認です。見解に異論ある競合企業や業界団体は、3月4日までそれぞれの見解を提出できます。最終的結論は3月17日に発表される予定です。