レーベルやマネジメントの施策では、一部をファンクラブ・アプリを除いて、アーティスト専用のモバイルアプリを開発して盛り上がる話題性は、以前と比べてだいぶ聞かれなくなりました。だからといってアーティスト・アプリという選択肢は無くなったわけではありません。

コールドプレイは先日、ファンやリスナーがバンドとインタラクションできるAndroidとiOSアプリを、彼らの世界ツアー「ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ」用にリリースしました。この公式ツアー・アプリでは、バンドのライブストリーミング、ビデオ、写真、ゲーム、ニュースを独占的に楽しめ、そしてカスタマイズされたARフィルターを使って自分だけのミュージックビデオを作りシェアすることができるなど、「ツアーを楽しむ必需品」となっています。

また同アプリでは、バンドが注力している気候変動問題に対するキャンペーンを反映した機能が用意されています。アプリの「トラベル」セクションには、ファンがツアー中のコンサートへ持続可能な移動手段を見つけるためのカーボンフットプリント計算機(CO2排出量計算機)が組み込まれ、ファンにも環境に配慮した活動を意識してもらうよう働きかけています。この計算機を使って移動したファンは、ツアーグッズのディスカウントコードがもらえる特典も用意されています。そして、ファンが計算したデータは、今後バンドがツアーの移動でCO2排出の削減に繋げていきます。バンドとファンが共同で社会問題に取り組む仕組みがアプリで実現しているのです。

先日、スコットランドのグラスゴー大学の研究チームが発表した、音楽ファンの気候変動問題への意識調査のレポート「Turn Up The Volume」によれば、イギリス人の音楽ファンの82%が環境問題が重要であると答えました。一般人で環境問題を重要と答えた人は72%で、音楽ファンはサステナビリティへの意識が高い層であることが示されました。

一方、同じレポートでは、「音楽業界による環境問題への取り組みを知らない」と答えた人は64%で、「よく知っている」と答えた人はわずか3%でした。つまり、アーティストやレーベル、ストリーミングプラットフォーム、コンサートプロモーターを含めた様々なステークホルダーは、今後は環境問題やCO2排出削減に取り組みだけでなく、音楽ファンを巻き込んだニュース発信や行動を推進する必要があるようです。