• 投稿カテゴリー:音楽業界

本稿は、人工知能(AI)を利用した音楽制作プラットフォーム「Loudly」のCEO兼共同創設者であるロリー・ケニー(Rory Kenny)氏に寄稿して頂きました。Loudlyは、AIを使って音楽を素早く生成することが可能になります。ロリー氏は、AI生成音楽は「音楽NFT」のクリエーターたちにとって大きなポテンシャルを持っていると述べており、この記事ではその領域について分かりやすく説明して頂きました。

NFTブームが続いています。特に、ビジュアルアーティストたちにとって、エージェントや契約書、アートギャラリーに依存しない収益源となり得る、新たな活動拠点を提供しています。NFTにおける主導権は今、クリエイター側にあります。ようやく、クリエイターたちがクリエイティビティとマネタイズの両方の観点から、「自立可能な未来」を描くことができるようになったのです。

しかし同時に、多くのクリエイターたちは、音楽とNFTを統合するのに苦労しています。音楽がビジュアル作品にもたらす多大な価値は、誰もが認めているところですが、音楽を通して、質感や感情、文化的要素が加わることで、ビジュアルアートが持つ作品性の価値は、さらに高まっていくからです。

統合における問題には、音楽業界が長く保持し運用してきた権利があります。これまでビジュアルアート界隈と音楽業界の権利ビジネスとは、無関係な存在でした。しかし、NFTブームの到来によって、突如としてこの2つの世界が組み合わさることとなりました。この意外なマッチングの発生によって、作品や権利に携わるあらゆる関係者にきちんと利益が分配されるための明確な権利の枠組みが存在していないという、危険な状況が生まれていることに多くの人は悩まされています。

当然ながら、NFTアーティストにとって、自分の作品で使用したい音楽に対する権利を見つけなければなりませんが、複雑な権利処理を理解するための時間やお金を確保するといった問題に直面します。

現状の権利ビジネスでは、音楽使用に制限がつくことが多くなります。これは、NFTを生成し運用する上での考え方を阻害してしまいます。NFTの世界で買い手を引きつける新しい作品を作ること。その力をアーティストに与えること。これこそがNFTのコンセプトです。

別の選択肢もあります。それは、NFTクリエイターがミュージシャンと直接コラボレーションをして、NFTのためのオリジナルなサウンドトラックを作ることですが、この方法でも、権利処理やNFTや音楽の所有権、収入分配といった複雑な問題が発生します。誰が権利を「所有」し、誰が収入を受け取り、どのような契約で所有や分配を明確に定義するか、といった問題です。音楽制作やNFT生成に関わる当事者間で「50%」で明確に権利が分割される、と同意されれば話は別です。そうでなければ、コラボレーター間に複雑で曖昧な関係が生まれてしまう危険性があります。

NFTクリエイターたちは、自分たちの独立性やクリエイティビティを守り、収入を得るための音楽ソリューションを必要としています。権利侵害の問題や、販売手数料のような繰り返し発生する特別な支払いが生じる状態を無くし、頭痛の種を減らすことを望んでいます。

LoudlyのAI音楽エンジンを使うNFTアーティストたちがいます。私たちは彼ら彼女らと提携して、様々な実験をしてきました。ジャンル、雰囲気、長さ、オリジナルのサウンドを入力し、作品やサウンドにおいて独自の設定を選択し、トラックを生成します。このツールによって、アーティストはトラックをすばやく作成し、音源データを出力したり、編集することができます。

Loudlyで生成された音楽はロイヤリティフリーです。収益分配、支払いといった、複雑な問題は全て解消されます。Loudlyでは音楽をオーディオビジュアルフォーマットに統合する権利をNFTアーティストに付与できるため、アーティストは成果物の所有権100%とNFTの売上をキープできます。

LoudlyがNFT制作を支援し、音楽を選択する際の時間、費用、ストレスを減らすことができることを実証するため、私たちはこれまで、4人のビジュアルアーティストと提携し、NFT制作でLoudlyを使用しました。

Schirin Negahbaniは、ベルリンを拠点とするドイツ系ペルシャ人のデジタルアーティスト兼ファッションデザイナーです。自身の作品を通して物語を伝えるのが彼女のスタイルです。SchirinはLoudlyのAIエンジンを使って「it depends」と題された穏やかなアンビエント・サウンドトラックを作りました。

ベルリン在住のブラジル人デジタルアーティスト、Gabriel Massanも「作品の雰囲気を増す」ためにLoudlyを使い、彼のNFTはローンチから8時間以内にソールドアウトしました。

「フルートの音とそれが引き起こす感情が気に入ったので、この音楽を選び、アニメーションに合わせて音を調整しました。AI技術によって作られた音楽に自分自身が大きな影響を受けている、と感じることが多くあり、AIと仕事をすること自体が、私の創造プロセスそのものにインスピレーションを与えてくれました」とSchrinは制作課程を語ってくれました。


Source: Using AI to create music for NFTs (guest column)

翻訳:塚本 紺

編集:ジェイ・コウガミ

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