音楽業界では、主要な収益源である音楽ストリーミングからの売上の鈍化傾向が懸念され始めています。特に、不満とされるのは、広告型無料ストリーミングの売上が減少している点です。米国の音楽業界団体「RIAA」(アメリカレコード協会)が発表した2024年度の市場実績レポートでは、広告型オンデマンド・サービスからの売上は前年比1.8%減少して18.3億ドルに留まりました。この中にはYouTube、Spotifyの無料プラン、Facebookなどが含まれます。また、非オンデマンド・広告型ストリーミングからの売上も3.5%減少して3億650万ドルでした。対象的に、音楽サブスクリプションの売上は5%増加し117億ドルと、音楽業界が期待する収益拡大に繋がっています。

広告業界団体「IAB」(インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー)が、米国のデジタル広告売上に関する2024年度のレポートを発表しました。それによると、米国デジタル広告売上は14.9%増加し、2,586億ドルに拡大しました。オーディオ広告は8.5%増加し、76億ドルの売上を生み出しています。しかし、この分野は2023年の18.9%の成長と比較すると、著しい減速が見られました。

2024年のオーディオ広告売上が8.5%成長するのと対象的に、無料の広告型音楽ストリーミングの売上が減少していることは、レーベルのデジタル収益戦略に懸念を示すものです。では、どうすれば、音楽業界や音楽サービスは広告サービスからの収益性を再強化していけるのでしょうか?

広告売上低迷を改善するための取り組みも進んできました。Spotifyは今月、広告主がリアルタイムオークションを通じてSpotifyユーザーにリーチできる広告取引所「Spotify Ad Exchange」(SAX)を開設しました。またセルフサーブ型広告プラットフォーム「Spotify Ads Manager」も機能が強化され、より高度なターゲティングや効果測定、広告目標設定が可能になりました。

メジャーレーベルでは、広告型ストリーミングの収益性を改善する対策についても議論が始まっています。提案の一つとして、より多くの広告を売ったり、価値ある広告主を探すことだけではありません。現在、無料で広告付きサービスを利用するユーザーに対して課金する可能性が議論されています。

ソニーミュージックのCEO、ロブ・ストリンガー (Rob Stringer)は2024年5月に次のように述べています。「有料音楽サービスの価値は依然として高く、前年の価格引き上げをパートナー各社が実施したことに感謝しています。しかしそれと同時に、有料サービスと無料サービスの価格差がこれまで以上に広がったことも意味します。成熟した音楽市場では、価格差を埋めるため、広告付きサービスの利用者に対して、パートナー企業が適度な料金の追加支払いを求めることに期待しています。そうすることで、広告付きサービスは単なるサブスクリプションへの導線に留まらず、ユーザーに大きな価値を提供する分野として成長できるはずです」

今のところ、ストリンガーの提案にDSP各社は応じていません。しかしIABのデータが示すように、デジタル広告やオーディオ広告の売上増加から考えられるのは、音楽業界やレコード会社が得られるデジタル売上も増加できる可能性はまだ残されています。