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世界的に人気のヘヴィメタル・バンド、Slipknotは、20年以上に渡り匿名の所有者が保有しているドメイン名「slipknot.com」の使用権を取り戻すため、米国で訴訟を起こした。バンドの公式アーティストサイトのURLは現在「slipknot1.com」となっており、本来の「slipknot.comは2001年にバンドと全く異なる匿名ユーザーによって登録された。同サイトでは長年、Slipknotの名前を利用したクリック課金広告が掲載され、またバンドの模造グッズ販売へファンを誘導し、不当な利益を得ていた。ドメイン保有者に関する詳細はWHOISやICANNなど公式データベースでは確認できないが、ケイマン諸島の私書箱が登録者住所として記載されている。バンドは、今回の訴訟で、「Slipknot.com」の所有権の移転の差し止め、さらに商標権侵害、不正競争行為の容疑も訴えており、損害賠償金も請求している (金額は未公表)。

今回、Slipknotは、訴訟の根拠に、1999年に制定された法律反サイバースクワッティング消費者保護法」(Anti-cybersquatting Consumer Protection Act)を適用した。この法律は、アーティスト名やブランド名の権利者が、悪意あるドメイン取得者から正式なドメインの取得を防止したり、訴訟を通じてドメイン権利を取り戻すことを認める法律だ。1990年代から2000年代以降、アーティスト名やブランド名、セレブリティの名前を使ってドメインを不当に登録し、高額で売買したり、所有権を主張するサイバースクワッティング」の行為が横行してきた同様のサイバースクワッティングによる不正行為は、近年ではSNSで著名なアーティストや有名ブランドのアカウント名、または模造したアカウント名を取得・作成し、高額で売買したり、なりすましや詐欺で利益を狙う悪質な行為にも発展している。

アーティストやクリエイター、音楽サービスが、オンラインまたはSNSで自身のブランドやIPを安全に保護することが難しくなっている時代において、技術を活用した対処方法へのニーズは高まっている。例えば、

①「.music」ドメインの登録
2024年よりアーティストやソングライター、音楽企業、関連団体などが優先的に同ドメインを登録・取得可能となった。アーティストのIPに基づいた認証付きMusicIDが付与され、公式アーティストの証明、ブランド保護に繋げやすい

②なりすましを防ぐ認証技術の導入 (pre-authentication)
アーティストの名前や肖像権、声、NIL (name、image、likeness)などに基づくデジタル証明書やトラッキングシステムを運営するサービスを活用し、アーティストのIPの不正利用、なりすまし、ディープフェイク、詐欺行為から保護。米国・ナッシュビルのスタートアップ「ViNIL」などは音楽向けの認証技術を提供する。