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グローバル音楽業界を代表する団体「IFPI」(国際レコード産業連盟)は、全世界の音楽市場の売上高、地域別の売上、音楽消費のトレンドをまとめた恒例のレポート「グローバル・ミュージック・レポート2023年度版」を公開しました

レポートの公開に先立ち、IFPIは、世界各国のメディアを招待したプレス発表会をリアルとオンラインのハイブリッド形式で開催しました。

本記事では、日本からMusic Ally Japanも参加した同イベントの詳細を含めて、IFPIの最新レポートを読み解き、グローバル音楽市場のトレンドと、今後の見通しを解説していきます。

2023年、世界の音楽市場は10.2%成長

IFPIによれば、2023年のグローバル原盤市場の売上高は前年比10.2%増加し、286億ドルに達しました。これで9年連続のプラス成長が続くこととなりました。

引き続き、音楽ストリーミングが、世界各地の市場の成長を牽引しています。サブスクリプションと無料広告型サービスを含むストリーミング全体の売上高は、前年比10.4%増の193億ドルに達しました。中でも、サブスクリプション型サービスの売上高は11.2%増加し、2022年に記録した成長率10.1%を上回りました。特に、サブスクリプションは、この1-2年でサービス各社の相次ぐ値上げによる効果が売上増加という結果に現れています。

全世界のサブスクリプション利用者数は、値上げに反対するリスナーのサブスクリプション離れも懸念されましたが、2022年末の5億8900万人から、2023年末は6億6700万人へと増加トレンドが続いています。この数値には、個人アカウントに加えて、家族共有アカウントも含まれています。

音楽サブスクリプションが引き続き、音楽売上の中心

売上規模で見ると、ストリーミング全体からの売上が、音楽市場全体の67.3%と、3分の2以上を占めました。その中では、サブスクリプション型サービスが48.9%と、広告型サービスが18.5%となりました。

ただし、売上全体のシェアを前年からの成長度合いで比べると、2022年の67%から2023年は67.3%と微増で、ほぼ横ばいでした。北米など、主要な音楽市場ではストリーミングの普及率がすでに高いことから、世界規模では、今後も伸びは鈍化傾向が続くと見られています。

一方、売上の規模は小さいですが、成長率が高かったのは、フィジカル音楽市場です。2023年は全世界で13.4%増の51億ドルに達し、市場売上全体の17.8%を占めました。2023年は、世界のフィジカル売上の49.2%が、アジア市場から生まれたことも特徴的です。

演奏権売上は9.5%増の27億ドル、シンクロ売上は4.7%増の6億3200万ドルでした。

唯一、前年から売上が減少したカテゴリーはダウンロード及びその他のデジタルからの売上で、前年から2.6%減少して、市場全体のわずか3.2%を占めるに留まりました (ただし、2022年の前年比11.8%減よりは減少率が鈍化してはいますが)。

2023年世界市場売上の内訳 (比較までに、カッコ内は2022年度の内訳)

  • ストリーミング全体: 67.3% (67%)
    • サブスクリプション型: 48.9% (48.3%)
    • 無料広告型: 18.5% (18.7%)
  • フィジカル音楽: 17.8% (17.5%)
  • 演奏権: 9.5% (9.4%)
  • ダウンロード、その他デジタル: 3.2% (3.6%)
  • シンクロ: 2.2% (2.4%)

音楽市場トップ10は変動無し

国別の売上順は以下の通り。トップ10音楽市場は2022年から変わりませんでした。最も成長率の速い国 (売上前年比)は中国で、売上高は前年比25.9%増加しました。次いでブラジルが13.4%、カナダが12.2%と成長を加速させています。日本の成長率は7.6%増でした。

(カッコ内は2023年度の売上成長率)
1.米国 (7.2%)
2.日本 (7.6%)
3.イギリス (8.1%)
4.ドイツ (7.0%)
5.中国 (25.9%)
6.フランス (4.4%)
7.韓国
8.カナダ (12.2%)
9.ブラジル (13.4%)
10.オーストラリア (10.8%)

地域別の売上成長率を見てみましょう。世界の主要なストリーミング市場でもある北米は7.4%増、ヨーロッパは8.9%増、オーストラレーシアは10.8%増でした。ただし、売上を成長率で見ると、従来の音楽市場に比べて、新興市場は遥かに速い速度で成長しています。

最も急成長したのはサブサハラ・アフリカ地域で売上は前年から24.7%増加。続いて、ラテンアメリカ市場(LATAM)の19.4%増、アジアの14.9%増、中東・北アフリカ地域(MENA)の14.4%と、いずれも二桁成長が続きました。

サブサハラ・アフリカ地域が大きく伸びた要因は、サブスクリプション型ストリーミングからの売上が24.5%も増加したことが背景にあります。ラテンアメリカでは、ブラジルが13.4%、メキシコに至っては18.2%も売上が前年から増加しており、また、同地域ではストリーミングが売上全体の86.3%を占めるほどまで成長し、収益構造の転換が進んでいます。

アジアの成長は、フィジカル売上の大幅増加によって牽引され、今後もアジアはプラス成長が見込まれます。

A&R、マーケティングに71億ドルを投資

グローバルレポートでは、現代の音楽市場におけるレコード会社の役割に関するトレンドも公開しています。

最新の数値では、世界のレコード会社は、年間でA&Rおよびアーティスト育成に39億ドル、マーケティングに32億ドルを投資する、とIFPIは述べています。両方を合わせると、アーティストの育成とマーケティングに、レコード会社の投資額は71億ドルに上ります。

興味深いデータがもう一つ。IFPIによれば、レコード会社からアーティストへ支払われた額は2016年から2021年の間に96%増加しているのに対し、(IFPI会員である)レコード会社の売上は63%増加した、と述べます。音楽市場の収益構造が日々変化している中、アーティストたちは、進化する音楽エコシステムから得られる利益の規模がますます増加していることを示唆しています。

無料ストリーミング、ショート動画は進化が必要

レポートの発表前には、IFPIはロンドンで、レコード会社の経営陣を招いた発表会とパネルディスカッション・イベントを開催。海外からはジャーナリストがオンラインで参加するハイブリッド形式で行われました。

イベントには、ユニバーサル ミュージック、ソニーミュージック、ワーナー・ミュージックのメジャー3社、そしてインディペンデントを代表してドイツのレーベル「Embassy Of Music」が登壇しました。

登壇者は次の6名でした。

ソニーミュージック グローバル・デジタル・ビジネス担当社長 デニス・クーカー

ソニーミュージック フランス マネージングディレクター マリーアン・ロバート

ユニバーサルミュージック 市場開発担当取締役副社長 アダム・グラナイト

Virgin Music Group UK社長 ヴァネッサ・ボセーン

ワーナーミュージック グローバルA&R副社長 カビル・ベロ

Embassy of Music 創設者兼CEO コンラート・フォン・ローネイセン

ここからは、イベントでの発言をいくつかピックアップしていきます。

ソニー・ミュージックエンタテインメントのデニス・クーカー (Dennis Kooker)は、「今後数年間、市場の成長には、より創造的な方法で有料会員を拡大し、より多くの顧客と同時に、音楽ファンを有料プラットフォームに取り込むことができるかどうか、が鍵となります」と述べました。

「音楽業界の焦点が、転換し始めたと思います。これまでは、単に有料会員を増やすことに集中してきましたが、今は、消費者にサブスクリプションの支払いを求める際により賢くなる必要がある、という認識へシフトしています」

クーカーは、初期段階にある高成長市場では、まだ人々にサブスクリプションの良さを説得することが必要だ、と述べ、「大きな進展が見られるものの、これらの市場の1消費者あたりの平均収益は、サブスクリプションがより確立された市場よりもはるかに低い」と現状の課題を説明しました。

「サブスクリプションが確立された市場の成長鈍化を補うには、はるかに多くの新規有料会員が必要です。この流れは、市場がさらに浸透が進むにつれて自然と起こるでしょう。だからこそ、消費者をどのようにセグメント化するか、より慎重に考えることへ、焦点が移っています。より多くを望み、多くの支払いを厭わない人、そのような人々のために特別に設計された製品が必要なのです」と、クッカーは、音楽消費者に対する業界の意識変化の必要性を唱えました。

クーカーはまた、無料広告型のストリーミングとショート動画サービスに対して批判的な意見と課題を示しました。

「成熟した市場に置いて、無料広告型サービスは進歩していません。特に、収益面で最も最悪な広告付きサービスであるショート動画プラットフォームは、人々を有料のサブスクリプションへ移行させる可能性が無いまま、多くの若年消費者にとって主要な消費プラットフォームと化しています」と述べました。

有料会員を増やすことからの進化が求められる業界

クーカーは、より多くのイノベーションの必要性を強調しました。「ストリーミング時代が始まって以来、無料サービスの収益モデルは進化していません。成熟した市場ではこの領域の再検討が必要です」

「ショート動画の課題は、広告付きモデルのみの製品であることです。そして、市場では歴史が浅い製品であるため、適切に収益化する方法で、誰もが苦労しています。このことは、初めての経験では有りません。重要なのは、この事実を認識し、実際に改善に繋がる戦略を開発することです」

「最終的に私たちが望むのは、主力製品の収益化の向上、さらなる経済効果の向上です。有料のサブスクリプションに繋がる製品では特に期待します」

「私は以前からこの課題について話をしてきました。無料広告付きサービスや無料サービスの目的が、人々に音楽を紹介し、有料のサブスクリプションへ誘導することだとすれば、人々が音楽に対してお金をはらうように説得できなければ、それは音楽業界にとって問題なのです。特定のサービスが、消費者の関心や、可処分時間を奪い取り始めるなら、それも私たちは問題と捉えるべきでしょう」

クーカーはまた、具体的なサービス名には触れませんでしたが、ソニーミュージックが無料型ストリーミングサービスとの契約交渉の方針を強化する可能性を示唆しました。

「私たちは、これまで実施されたサブスクリプションの価格改定を全面的に支持しています。消費者は、サブスクリプションを引き続き使い続ける意欲を示しています。なぜなら、これらは素晴らしい価値を提供するからです。特に、成熟した市場において、今後、広告付きサービスの価格帯も調整されない、と考えるのは、問題の本質を見過ごしていると思います。特に、市場が成熟するにつれて、消費者一人あたりの平均売上高を伸ばすことに焦点を当て、その取り組みをオープンにすることは素晴らしいことです。無料広告型サービスは、この論点の一部でなければなりません」

高成長市場のさらなる可能性

ユニバーサル ミュージック グループのアダム・グラナイト (Adam Granite)は、高成長市場から見える可能性について語りました。

「高成長市場の多くで興味深いのは、インドのような国が良い例です。地球上で最も人口の多い国ですが、若者の人口が多い傾向があります。若年層が音楽ストリーミングをいち早く受け入れることを、私たちは理解していました。これに加えて、スマートフォンの普及率の上昇、高速かつ低コストなインターネットへのアクセス、ストリーミングサービスの台頭が重なると、これらの市場は海外アーティストにとって大きな成長のチャンスが生まれます」

グラナイトは、レコード会社がこうした高成長市場に参入するため、パキスタン、ナイジェリア、UAE、タイでユニバーサル ミュージックが行った最近のパートナーシップと投資の例を挙げました。

「これらの取り組みが持続可能で、これらの市場の音楽シーンに持続的な影響を与えるためには、長期間にわたる時間とリソースのコミットメントが条件です。中国が好例です。継続的な成長が証明しています。中国にはまだまだ大きなチャンスがあります。しかし、これは一夜で生まれるものではありません持続的な投資、地元の音楽市場に関する専門知識、現地パートナーとの長期計画が結果に繋がります」

レコード会社がゲートキーパーの時代は終わる

インディペンデントを代表して参加した、ドイツのレーベル「Embassy of Music」CEO兼創設者のコンラート・フォン・ローネイセン (Konrad von Löhneysen)は、アーティストの中には、旧来のレコード会社の枠組み以外の方法を選び、成功を目指すアーティストが増えている、と市場の変化について語りました。

これまでのレコード会社の強みは、小売店とメディアへのアクセスを持っていることでした。しかし2024年には、アーティストが自ら制作を行い、プラットフォームへ配信し、SNS上の自分のチャンネルを通じてファンと直接繋がることが日常化しています。

しかし、そこには課題もあります。アーティスト自身が抱える役割が増えたことで、負担を感じる局面も増えました。ローネイセンは、レコード会社の役割は、ゲートキーパーになることを止め、アーティストの素晴らしさについてレコード会社が誇りを持って、メディアや小売、人々に伝えることだと述べます。

「私たちの役割は、美術館に似ています。アートを展示し、人々がギャラリーを訪れ、アーティストの素晴らしさを感じてもらうよう、しなければなりません。必ずしも、アートに手を加える必要はないのです!」

Virgin Music Group UK社長のヴァネッサ・ボセーン (Vanessa Bosåen)は、アーティストをサポートするサービスの役割について、こう述べました「変化を意識するだけでなく、変化の速度を意識することも重要です。圧倒される要因はそこにあります。アーティストには、攻略しなければならないあらゆる異なるプラットフォームやメディアが存在しています。そして、私たちが彼らと協力する方法は、月単位、時には週単位で変化するのです」

「音楽家やアーティストは、今まで以上に自分たちをコントロールできる力を持っています。これは大変良いことです。しかし、同時に難しさもあります。本来のポテンシャルを発揮するには、業界の専門知識が必要です。アーティストや、アーティスト・チームが全てを自分たちだけで実現するには、時間が足りません」

ワーナーミュージック・グループのカビル・ベロ (Kabiru Bello)は、世界中の新興音楽シーンにおける、アーティスト・コラボレーションの可能性である「クロス・コラボレーション」と、アーティスト育成の新たな兆候について語りました。

「ワーナーミュージックでは、4月にマドリードで、アフロ・ヨーロッパ圏のソングライティング・キャンプを予定しています。6月には、アフロ・ラテン圏のキャンプも行います。これらの取り組みは、オーセンティックで自発的なクロス・コラボレーションを実現することを目指しています。現代のリスナーは、何が本物か、聞けば分かるからです」