
音楽業界における「グローバル」の概念は、過去数年で、大きく進化してきました。メジャー・インディペンデント問わず、世界各国の市場がより密接に繋がり、グローバルヒットがあらゆる地域から生まれる現代では、音楽業界はこれまで以上に世界規模の取り組みに対する期待値が高まる一方、「グローバル」の意味や全体像を把握することは、さらに難しくなっています。
ロンドンで開催した、Music Ally主催の音楽ビジネス・カンファレンス「Music Ally Connect」初日には、国際的に注目を集めるローカル音楽市場と、グローバル化が急成長する要因を詳細に考察するセッションが多数行われました。各地域の関係者が登壇し、市場の変化を理解するための事例の紹介や、今後のビジネス機会の可能性について語りました。
Luminate: グローバル市場のトレンド – 非英語圏の成長に注目
Luminateのコマーシャル部門上級副社長のスコット・ライアン (Scott Ryan)は、2024年のグローバル音楽市場のトレンドやインサイトに関するプレゼンテーションを共有しました。
・グローバル市場では、ストリーミング再生数は6.4%増加。特にオンデマンド型オーディオストリーミング再生は14%増加。米国を除くと17.3%増加と、顕著な伸びを記録しました。この成長は、新興音楽市場が牽引しています。
・非英語圏の音楽が、音楽輸出市場を牽引しています。伝統的に、輸出しやすい音楽 (自国以外で消費される音楽)は英語圏の楽曲が主流でしたが、現在はコロンビア、韓国の非英語圏の国のソングライターが輸出される傾向が強まっています。
・音楽消費の傾向では、ローカル・アーティストによる楽曲の消費量が増加しています。これは特に非英語圏の市場で増加しています。同時に、英語圏市場では減少傾向にあります。
ローカル音楽が成長する背景
「ローカル音楽の成長 (The Rise of Regional Music)」と題したパネルセションでは、プエルトリコ出身のグローバル・インディペンデント・アーティスト、バッド・バニーなどを世界に展開する音楽出版社、Rimas Publishingからマネージング・ディレクターのエミリオ・モラレスが参加。メキシコやプエルトリコなど、世界で急拡大するラテン音楽市場の成長要因について「このジャンルの成長は、多くの要因が融合した結果であり、音楽業界全体の未来を示唆する兆候です」と総括しました。
ラテン音楽が世界の人々から支持される理由には、アーティストたちがラテン地域の文化に対して誇りを持ちつつ、過去の音楽が持つリズムやスタイルを自然体で取り込み、表現している文化的要因をモラレスは指摘。Peso Plumaのようにルーツ音楽を起点にしながら、「コリドス・トゥンバドス」と呼ばれるモダンな要素を取り入れ、グローバルで認められる独自性を持ったアーティストが次々と成功しています。
モラレスは、アーティストたちの本物らしさ、オーセンティシティが市民権を得たと続けます「人々は、楽曲の背後にあるメッセージに強い結びつきを感じています。私たちは、アーティストが純粋な形で自己表現できる機会を提供しています。今では音楽出版社はアーティストにビートや歌詞を変更するよう求めることはなくなりました」
ナイジェリアでアーティスト育成プログラムを行うMBA For Africaのプログラム・ディレクター、エリザベス・ソボワレ (Elizabeth Sobowale)は、若者たちが「音楽を録音し、配信するためのテクノロジーへの手軽なアクセス」がナイジェリアにおける音楽の変化を推進していると述べます「膨大な量の楽曲が制作されています。そして、多くの若者たちが、音楽ビジネスに関心を示し、ロイヤリティの収益化を理解し、自分たちのキャリアパスを模索しています」
ソボワレによれば、ナイジェリアのアーティストたちが受ける音楽的な影響や、文脈を見出す方法にも変化が見られると指摘「10年前、アーティストたちは海外のジャンルであるヒップホップやレゲエ、ダンスホールなどに影響を受けていました。しかし今は、ナイジェリア国内のカタログ楽曲に注目して、そこから影響を探したり、サウンドをサンプリングしています」
「メジャーレーベルは、他の地域のアーティストとコラボレーションする理由から、アフロビーツのアーティストを探していますが、実際は、本物らしさを示す音楽がローカル市場で受け入られるのです。単にコラボレーションを行うだけでは成功しません」
インディペンデント向けのディストリビューター兼レーベルのEMPIREで、北アフリカ(WANA)地域責任者のスヘル・ナファル(Suhel Nafar)は、WANA地域の音楽消費が過去5年間で大きな変化を遂げたことに言及しました「サウジアラビアではかつては音楽が禁止されていましたが、現在は合法化され、フェスティバルなどを通じて大規模に推進されています。音楽の輸出も加速しています。楽曲制作を容易に行うためのサンプリング用音楽ライブラリの構築も進めるなど、デジタル化が急拡大しています」
ナファルは「文化を融合すればするほど、より良いものが生まれる」と力説しました。彼は、サンフランシスコでプロデュースした楽曲に、モロッコとパレスチナの音楽要素を組み合わせ、東アフリカでヒットした実例を挙げました。「ハイブリッド言語は、トレンドの一つです。私たちのアーティストは誰もが2つ、3つの言語に精通しています。これがクロスオーバー文化を生み出す要因です。モロッコからアフロビーツのような音楽が生まれますが、オリジナルなスタイルを踏襲しています。これこそがグローカライゼーションです。グローバルな音楽要素を取り入れつつ、ローカル向けに作っているのです」