世界的なCOVID-19感染拡大は、Spotifyの2020年第1四半期決算における成長を妨げるには至らなかった。しかし、世界中の多くの地域でロックダウンが行われ、経済的な懸念が高まる第2四半期においてはどうだろうか?

 Spotifyが最新四半期の決算を報告した。Spotifyは第2四半期に、800万人の新規サブスクリプション加入者、1,300万人の新規月間アクティブ・ユーザーを獲得しており、第2四半期末時点で、1億3,800万人のサブスクリプション加入者数、2億9,900万人の月間アクティブ・ユーザー数を記録している。

 一方、第2四半期におけるSpotifyの売上高は、前年同期比13%増の18億9千万ユーロ(約2,347億円)となった。当四半期における営業損失は1億6,700万ユーロ(約208億2千万円)、純損失は3億5,600万ユーロ(約443億9千万円)だった。

 COVID-19による影響はあったのだろうか?第1四半期の財務情報とともに4月に発表された、アナリスト向けのガイダンスで、Spotifyは、第2四半期末までに、1億3,300万~1億3,800万人のサブスクリプション加入者、および、2億8,900万~2億9,900万人の月間アクティブ・ユーザー数に到達し、17億5千万~19億5千万ユーロの売上を生み出すと予想していると述べていた。

 つまり、Spotifyの第2四半期における数値は、リスナーとサブスクリプション加入者数ともに、期待値の上方の記録を叩き出し、売上予測に関しても、高い水準を出したと言えるだろう。

 「第2四半期における当社の事業は好調で、COVID-19の感染拡大に伴う不確実性が続いているにも関わらず、高水準であり続けています」とSpotifyは株主当ての書簡で発表している。

 「当四半期の初期段階には、進行地域の一部の国で、COVID-19に関連した影響が少し見られました。中南米の一部とその他地域では、新規プレミアム会員の減少、解約の増加、支払いの失敗増加が見られ、予想していた成長よりも伸びが鈍くなっていました」とSpotifyは続ける。

 「心強いことに、6月には大きく再活性化の動きが見られ、アカウントの復活増加、解約の減少が確認できました。これらの地域全体において、予想を下回る結果となりましたが、北米およびその他地域において我々が保有する力は、第2四半期開始時の遅れを相殺する以上のものでした。」

 Spotifyは、「世界中の消費時間(※Spotifyにおいて費やされた時間)」が、中南米を除く全ての地域で、「COVID-19以前のレベルに回復」したと付け加えている。中南米では、「世界的な健康危機以前におけるピーク時よりも約6%低い」ままであるとのこと。

 COVID-19による影響が最も顕著に出たのは、Spotifyの広告収益であり、前年同期比21%減の1億3,100万ユーロ(約163億3,500万円)となった。ただし、サブスクリプション売上は17%成長して17億6千万ユーロとなり、引き続き、Spotifyの総売上高の大部分を占めている。

 Spotifyの第2四半期における財務結果からは、他にも下記のように様々なことが読み取れる。

・地域の詳細に関して、Music Allyの計算では、第2四半期、ヨーロッパにおけるSpotifyの新規月間アクティブ・ユーザー数が、160万人未満であったのに対して、北米では340万人、中南米では290万人、その他の地域では520万人の新規月間アクティブ・ユーザー数を追加している。しかし、最も新規サブスクリプション加入者が多かったのはヨーロッパの310万人であり、北米は230万人、中南米は170万人、その他の地域では90万人となっていた。

・Spotifyの全体的なコンバージョン率(サブスクリプション加入者であるリスナーの割合)は46.2%だ。ヨーロッパでは52.9%、北米では51.5%、中南米では44.1%、その他の地域では28.2%(第2四半期において、コンバージョン率が唯一下落した)となっている。

・Spotifyのプレミアム・プラン加入者のユーザーあたりの平均収益(ARPU)は前年同期比9%減の4.41ユーロとなった。

・Spotifyは現在、2020年末までに月間アクティブ・ユーザー数が3億2,800万~3億4,800万人、プレミアム会員が1億4,600万~1億5,300万人になると予想しており、プレミアム会員数の予測が1億4,300万~1億5,300万人から増加したことを除けば、一四半期前に発表された数値とあまり変わらない予想を立てている。

・Spotifyの月間アクティブ・ユーザーの21%が現在ポッドキャストを再生しており、2020年の第1四半期における19%、2019年第4四半期における16%から増加した。数にすると約6,280万人であり、前四半期から850万人増えている計算となる。

・これまでに、Spotifyの新たな機能「Artist Fundraising Pick」を使用したアーティスト数は、3ヶ月前の5万組から増え、9万千組以上となった。

・現在、69万組以上のアーティストがSpotify for Artistsツールを利用している。また、Spotifyは「トップ層」のアーティスト(再生数の上位10%を占めるアーティスト)が、1年前の3万組から増加し、4万3千組を超えたと主張している。「トップ40の時代は終わりを告げ、今は、トップ43,000の時代となったのです。」

 財務結果が発表された後、Music AllyはSpotifyのCEOであるダニエル・エク氏にインタビューを行った。まずエク氏は、Spotifyの成長について「とても心強い数字です。前回の決算時点で、多くの数字が安定してきており、非常に期待できる値だったので、実際に安定していること、そして、第1四半期から続く傾向と共に、多くの地域が正常に戻りつつあるのを確認できたのは素晴らしいことです。」と語っている。

 決算発表内で使われた、「トップ40の時代は終わりを告げ、今は、トップ43,000の時代となった」という一文について、俯瞰図で見た時にそれが何を意味するのかという質問に対して、「より多くのアーティストとより多くの関係が形成されているというのが実際に起きていることです」とエク氏は述べる。

 「より多くのアーティストが芸術で食べていけるようにすることが当社の使命であり、それが実際に数字として現れ始めているのです。ますます多くのアーティストが大規模にブレイクし、影響力を持ち、新しいファンとの関係を築いています。」

 エク氏は、10〜15年前と比較して、「平均的な消費者は、様々なジャンルを通じてより多様な好みを持つようになっており、以前よりもたくさんのアーティストを知っています」と示唆する。

 そもそも「100万人のアーティストが芸術で生活できるよう支援する」というSpotifyのミッションは、2018年3月にダニエル・エク氏が、同社の上場に先立って表明したものだ。

 しかし、Spotifyがサービスをローンチして以来、2020年は最も、ストリーミングから生じるロイヤリティが生活をする上で十分でないという声を上げるアーティストが増えている。イギリスでは、ストリーミング・サービスだけでなく、レーベルやより広範な業界構造にまで視野を広げた「#BrokenRecord」というキャンペーンも起きている。

 レーベルおよびストリーミング・サービスはこの議論の中で比較的沈黙を保っていることが多かったため、今回我々はエク氏に次の質問を投げかけてみた。Spotifyが表明した目標と、これまでに意見を表明してきたミュージシャンの体験との間に、なぜこのようなギャップが存在するのか?そして、そのギャップを埋めるためには何が必要となるのか?

 「ここで指摘しなければならない二つの傾向があります。我々は、多くのアーティストが短期的にCOVID-19の影響を受けていること、そして、ライブ業界が受けている影響についても理解しています。ご存知のように、アーティストがCOVID-19以前に得ていた収入の多くはツアーやライブ・パフォーマンスから生じています。多くのアーティストはそのせいで苦労しています」とエク氏は述べる。

 「音楽ファンとして、私も、ライブ・コンサートに戻れることを願っています。戻ることができれば、非常に意味のあることになるでしょう。」

 ストリーミングの批判家も、パンデミックが発生する以前にライブ収益(およびグッズなどライブ収益に付随する収益)に依存していた多くのミュージシャンの収入に、COVID-19が深刻な影響を与えたことには同意するだろう。しかし、批判家は、そもそもなぜ、録音原盤(具体的にはストリーミング再生)が、多くのアーティストの収益において、非常に低い割合しか占めていないという現状が当たり前になったのかという問題に焦点を当てている。

 エク氏はストリーミングのロイヤリティに関する意見に言及し、「全体的な規模が成長しており、ますます多くの人がそこに参加できる一方で、我々は非常に限られた数のアーティストに焦点を当てる傾向があるというのは興味深いことです」と述べる。

 「今日、我々の市場でも、文字通り、何百万組ものアーティストが存在しています。報告される傾向がある意見は、不満がある人々によるものであることが多いですが、実際に話している人を見かけることはほとんどありません。これまで、Spotifyの中で、『ストリーミングから得られる収益に満足している』と公に発言したアーティストは見たことがないと思います。プライベートでは何度も言っていても、それを公で発言する動機がないからです。しかし、データを見る限りでは、ストリーミング収益だけで生活できるアーティストが増えているのは明らかです。」

 「過去に上手くいっていたアーティストの一部は、3〜4年に一度音楽をレコーディングするだけで十分ではない未来的な状況においては成功できないことが明らかであるという事実があります」とエク氏は述べる。

 「今日成功しているアーティストは、ファンとの継続的なエンゲージメントを生み出すことが重要だと気づいています。アルバムのストーリーテリングや、ファンとの対話を続けることに力を入れることが重要なのです。」

 エク氏は、そのような努力から恩恵を受けた最近のアーティストの例として、テイラー・スウィフトの最新アルバム『Folklore』周りの活動を挙げている。「正直、ストリーミングで上手くいっていないのは、主に、以前のリリース方法で音楽をリリースしたがっている人たちだと思います」とインタビューの終わりにエク氏は言った。

 エク氏によるこれらの発言に対して、数多くのアーティストおよびファンが、批判を浴びせ、大きく物議を醸すこととなった。

 REMのマイク・ミルズは、「億万長者のダニエル・エクは、音楽=製品で、定期的に量産する必要があると言っている。ふざけるなよ」という主旨をツイートしており、Massive Attackの公式アカウントは「ダニエルが描くストリーミングの未来の夢では、Spotifyのアルゴリズムがプレイリストのフィードバック・ループを決定するだけでなく、アーティストに取って代わるようになるでしょう。そうすれば彼は誰にもお金を支払わなくて良くなります」というツイートをしている。

 ゾーラ・ジーザスも、「億万長者のダニエル・エクが音楽や、どんな芸術も作ったことがないことは火を見るよりも明らかです。彼は、商品と芸術の違いを理解することを拒否しています。そのために、文化的成長の可能性は損なわれることになるでしょう」とツイートし、Twisted Sisterのディー・スナイダーも、「リスナーとしてのあなたはSpotifyからの恩恵を受け楽しんでいるかもしれないが、ストリーミングはアーティスト/クリエイターの主要な収入源を潰している一部だ。この損失に耐えられるくらい『十分豊か』なアーティストは全体の0.0001%に過ぎない。ダニエル・エク氏が提案する解決策は、我々が10セント硬貨で満足してもっと作曲してレコーディングすることだと?ふざけるな!」とツイートしている。