米国の音楽業界団体である米国レコード協会 (RIAA)が発表した、2025年上半期の米国音楽売上レポートによると、音楽市場の成長鈍化がより一層浮き彫りになるなど、業界にとって懸念材料が示され、分野によって明暗が分かれた結果となった。RIAAは今年から卸売ベースの売上報告を開始している。これは、IFPIのグローバル・ミュージック・レポートなどで採用される国際業界標準に沿った指標に変更された。
https://www.riaa.com/growth-in-paid-subscription-streaming-drives-mid-year-2025-us-recorded-music-revenues-to-new-high-reports-riaa/
米国の原盤市場の売上高は55.9億ドルと過去最高額を記録した。しかし、2024年の同時期と比較して0.9%の小幅増加で、一桁成長も達成できなかった。
音楽ストリーミング売上は、引き続き米国市場を牽引し、2.3%増の46億8000万ドルとなり、米国音楽市場における総収益の84%を占めた。ただし、2024年上半期の3.8%成長と比べて鈍化した。もう一つの成長牽引分野である音楽サブスクリプションは、売上高が前年比5.7%増の32億ドルに達した。また、音楽サブスクリプションに加入するアカウント数は6.4%増加して1億530万と、2024年上半期から630万人増加するポジティブな要素があった。
好調に成長が続いたのは、プレミアム音楽サブスクリプションだった。同分野の成長率は6.3%で、売上高は28.9億ドル。2024年上半期の5.1%を大きく上回り、加速している。
音楽ストリーミング収益の内訳は以下の通り。
• 有料サブスクリプション(プレミアム):28億9,000万ドル(+6.3%)
• 有料サブスクリプション(非プレミアム):2億6,270万ドル(-0.4%)
• 無料ストリーミング:8億7,510万ドル(-2.9%)
• その他ストリーミング:6億5,290万ドル(-5.3%)
RIAAによれば、「無料ストリーミング」は、スタチュトリー・ライセンス外で運営される広告付きオーディオおよびミュージックビデオサービスが含まれる。YouTubeやSpotifyの無料版、SNS、フィットネス・アプリなどが対象となる。「その他ストリーミング」は、SoundExchangeが徴収するデジタルサービス、パーソナルラジオや類似サービスの売上が含まれる。
音楽ストリーミング以外でも成長鈍化が浮上してきた。フィジカル売上だ。同分野は2025年上半期に5億7640万ドルで、前年比5.9%減少した。CD売上が22.3%と急落し1億810万ドルに減少した。過去10年以上に渡り、フィジカル音楽を牽引してきたアナログレコード売上も初めての落ち込みを記録し、1%減の4億5690万ドルにとどまった。
さらに、シンクロ売上も7.9%減少の1億9,600万ドルとなるなど、音楽業界にとっての懸念材料が増えている。
こうした中、RIAAは発表で、ポジティブな側面を強調した。RIAA会長兼CEOのミッチ・グレイジャー (Mitch Glazier)は「有料サブスクリプション数が1億件を突破し、歴史的な節目を迎えました。2025年上半期には、全フォーマットの合計収益が56億ドルに達しました。これは、音楽の持続的な価値と、レコード会社やパートナーシップに支えられた人間中心の芸術への需要を示す重要な指標です」と述べた。
RIAA調査担当副社長のマット・バス (Matt Bass)は「米国アーティストは世界全体のストリーミング再生回数の3分の1を占めており、次の6か国を合計した数値を上回っています。これらの数字は、音楽が米国の最も強力な輸出品の一つであり続けていること、そして安定的かつ持続可能な基盤であることを示しています」と述べた。
しかしながら、音楽業界内では今後、米国の数字を巡った議論や考察、成長を鈍化させた分野に対する責任の所在を問う声が増えるかもしれない。Spotifyの担当者は以前、Music Allyに対し、2025年上半期の同社の成長率とロイヤリティ支払いは米国市場全体を上回ったと強調した。この発言からは「どの競合サービスが成長できなかったか」という競合比較の疑問が生まれるだろう。
当面の最大の論点は、広告付きストリーミングサービス、無料ストリーミングの低迷だ。音楽業界はこの分野にどう対応すべきか、議論が深まるはずだ。SpotifyやYouTubeの無料サービスだけでなく、ショート動画プラットフォームが音楽業界に十分な収益をもたらしていない現状をいかに改善できるか、業界全体の持続的成長にとって大きな課題が残る。