
Spotifyのライブ音楽部門ビジネス開発の責任者であるジョン・オストロウ (Jon Ostrow)は、Music Allyの単独インタビューに応じ、同社のライブ音楽やチケット販売に対する戦略と狙いについて語った。
オストロウはまず、過去1年間で、22万8000組のアーティストがSpotify上にライブ情報を掲載し、そのうち18万2000組はファンが情報をクリックし、7万4000組はチケット販売を記録したデータを示した。
35社を超えるチケット販売事業社との連携
「ライブイベントをプラットフォームにシームレスに統合する最適な方法の開発が、私たちの最大の目標でした」とオストロウは述べた。「現在は、専用のライブイベント専用のハブに加えて、アーティストページやアルバムページ、さらにはポッドキャスト、Now Playing画面、ホーム画面にもイベント情報を統合しています。あらゆる場所にライブイベントが存在していると言えます」(オストロウ)
またSpotifyは最近、「メッセージ送付」にも注力している。リスナーに対して、好きなアーティストのイベント告知やリマインダー、レコメンデーションを配信する。こうした取り組みの背景には、チケット販売事業社との提携戦略があり、その数は現在35社を超えている。
Spotifyは2024年2月、ライブ情報サービス「Bandsintown」と連携を開始し、Spotifyを通じたライブ情報掲載とチケット購入を強化した。日本では、2025年8月、ローチケとの連携が新たに始まった。加えて、以前からのチケット販売パートナーであるチケットマスター、Eventbrite、Songkick、AXSなどとの協力体制を維持し、ライブ・チケット情報をプラットフォーム内のあらゆる場所に掲載し、リスナーが好きなアーティストのライブ情報にSpotifyからアクセスできる送客連携を継続している。
アーティストの収益拡大では二桁成長が実現
オストロウによれば、これらの企業提携の技術的連携の整理には「1年半近く」要したとのこと。「持ち込まれるメタデータは多種多様で、データを取り込み、整理し、エコシステム全体に滞り無く提供する必要がありました」(オストロウ)。
データ連携の仕組みが整備されると、チケット販売会社との協議が今年初めから「非常に早いペース」で進展し、提携先が拡大した、とオストロウは述べる「あらゆる規模のアーティストをプロモーションできる観点から、私たちの取り組みは、世界各国の市場において本質的かつ広範囲です。特に、中堅および新進気鋭のアーティスト支援に取り組んでいます」
「私たちの発見機能を通じたチケット販売や観客動員への貢献度合いを見た時、Spotifyによるアーティストの収益拡大では、全体的に二桁成長が実現しています。中でも最大の効果が見られるのは、新進アーティストの分野です」(オストロウ)
チケット販売専用のアルゴリズム
Spotifyは、自社のレコメンデーションアルゴリズムなど、既存のインフラを活用して、「最もライブに行きたい可能性の高い人々」に向けてアーティストのチケット情報を届けている。ただし、これらのアルゴリズムには調整が加えられている。
「アーティストに関する適切なレコメンデーションを提示するという目的で、アルゴリズムは非常に優れています。しかし、私たちは、ライブの特性に関連した、独自のシグナルを追加し、参照しています」(オストロウ)
「例えば、ファンがイベントページやLive Eventハブでどのようにアーティストに関わっているか、チケット販売サイクルのどの段階で行動が起こっているか、どの規模のアーティストの情報を見ているか。こうしたデータは、私たちのチケット関連のレコメンデーションに役立っています。通常の再生に基づくレコメンデーションとは異なる場合があります」(オストロウ)
Spotifyのチケット販売パートナーのネットワーク拡大戦略において、日本でのローチケとの提携について語り、世界各地でのチケット販売の知見を蓄積していることを明らかにした「ローソンに行けば、コンビニ内でチケットを購入でき、そのまま店舗で受け取れる仕組みがあります。これは日本では非常に一般的なチケット購入方法です」
「チケット販売のあり方を社会的・経済的な要因から学ぶだけでなく、長年にわたる地域ごとに継続してきたチケット販売の慣習、それぞれの市場のデジタル化への移行の度合いを差異が、パートナー企業との連携方法を検討する上で新たな課題を生んできました」(オストロウ)
Spotifyがチケット転売に参入しない理由
Spotifyはこれまで、一次チケット販売事業者のみと提携してきたが、チケット転売、二次流通市場には一切関わっていない。これは意図的な戦略だ、とオストロウは説明した。
「チケット転売という概念は、市場ごとに有害性の度合い、規制が異なります。私たちが最大化したい価値は、一次在庫を持つアーティストと、実際にライブに行きたいファンをつなぐことです。それが本質的な繋がりなのです」(オストロウ)
一次流通販売のみに注力することで、Spotifyは、近年社会的に議論が広がる違法または不正チケット転売や、高額転売、売り手が実際にはまだ所有していないチケットを出品する無在庫リスティングといった論争から距離を置いている。
「不正や詐欺を行う業者が参入することはありません。私たちは一次販売事業者と直接契約します。転売目的の無在庫販売や悪質な業者が私たちのプラットフォームに入る余地はありません」(オストロウ)
オストロウのチームは現在、次の戦略を計画している。
2025年初めには、スーパーファン向けの高額なサブスクリプション「Music Pro」の年内導入の噂が浮上した。情報によれば、同プランではチケットの先行販売へのアクセスが主要機能の一つと言われている。Spotifyは、チケットの確保に向けて、すでにライブ・ネイションと協議していることも明らかになっている。しかし、2025年後半に入った9月現在、Spotifyからは何も新情報は発表されていない。
オストロウは「Music Pro」には触れなかったが、同社のチケット販売事業における別の可能性を語った「これまでに、私たちはコンサート中心の取り組みに尽力してきましたが、大多数のパートナー企業はコンサート以外にも、お笑いやポッドキャストのライブ収録、その他のイベントも支援しています。Spotifyが音楽だけにとどまらない幅広いオーディオプラットフォームの地位を確立するため、この領域の拡張に機会があると考えます」
「私たちには既に強固なパートナー企業とのネットワークがあります。この関係をさらに深め、イノベーションを進める方法を模索しています。既存のパートナー連携をさらに深める新たな手段や、新規提携の可能性を探ることは非常に刺激的です。それがチーム全体と私自身のモチベーションに繋がっています」(オストロウ)