米ディストリビューターのUnitedMastersが主催するオンライン・イベントで、同社のCEOであるスティーブ・スタウト氏がラッパーのRussとの会話の中で、今後、大御所アーティストは従来のレーベル・システムの外で活動することを決心するようになるだろうという意見とともに、Drakeに関する見解を述べた。UnitedMastersはアーティストが従来のレーベル・システムの外で活動するのを支援するディストリビューターであるため、彼の見解は衝撃的なものではないが、一考の価値はあるだろう。

 「前にも言いましたが、今後6ヶ月の間に露見するでしょう。Drakeは音楽ビジネス史上最大の収益をあげようとしています」と語る。Drakeがインディペンデントになった場合にメジャー・レーベルにもたらされる脅威に関して、「彼らはそれが起こることを望んでいません。なぜなら、そんなことになったら、倒産しなければならなくなるかもしれませんから。Drakeがインディペンデントになったら、音楽ビジネスは終わりです!」と述べた。

 Russは、この話題をスタウト氏に持ちかけるときに、自身の見解からスタートしている。「Drakeがもし、完全に独立して、インスタグラムに最新アルバムの投稿、例えばプロフィールにリンクを貼って『完全にインディペンデントで最新アルバムをリリース』と言ったら、Drakeは60週間にわたって週に1,000万ドル(約10億7千万円)を稼ぎ続けられるでしょう!」と述べ、その後、1曲のレコーディングに5万ドル(約530万円)費やした場合の理論的な経済性を反映し、「その一曲から、週に100万ドル(約1億700万円)を一生稼ぎ続けることができるんですよ!」と語った。

 「Drakeが独立するか」と言うことに関してだが、ストリーミング時代において最も象徴的なアーティストの一人としての彼の地位を考えると、業界全体が、その行方を気にするのも当然だろう。ちなみに、これは、最近気にされ始めた問題ではない。二年前には、レーベル Young Money/Cash Money(ユニバーサル・ミュージック・グループ傘下のRepublic Recordsによって配信された)とDrakeの既存の契約がその方向に進んだという噂が流れた後、Varietyが「Drakeが公開市場におけるフリー・エージェントになったらどうなるか」を推測している。Varietyの記事では、メジャー・レーベルとの契約、Live Nationのツアー・パッケージ、そして、ストリーミング・サービスに直接独占契約を持ちかけるという三つのオプションが分析されていた。

 その後のDrakeのリリースとしては、Drakeが2012年に共同設立したレーベルOVOが所有する『Care Package』、Drake自身の企業Frozen Momentsが所有し、Republic Recordsに対して独占的ライセンスを提供した「The Best In The World Pack」、Republic Recordsへの独占的ライセンスの下、OVOが所有する「Toosie Slide」などがある。「インディペンデントか、所属か」という考え方は、間違った二択だ。Drakeは、インディペンデントとして活躍できるくらい影響力を持つ大御所の一人であると同時に、ライセンス契約を通じて、メジャーレーベルが持つマーケティング・パワーも活用しているアーティストだと言える。

 もし、Drakeのような人気アーティストが、メジャー・レーベルを一切必要としないという決断を下した場合、大きなニュースになることは間違いないだろう。しかし、音楽ビジネスはまだ「終わり」ではない。なぜなら、音楽ビジネスにおける大きな変化として、メジャー・レーベルが必要な進化を遂げているからだ。この動きには、Drakeなどのスターによって既に活用されているレーベル・サービスやライセンス・パートナーシップ、そして変化する環境に対応した、原盤権周りの柔軟性(テイラー・スウィフトとユニバーサル・ミュージック・グループの関係性などに見られる)などが含まれる。

 スタウト氏とUnitedMastersは、音楽業界をこのような、興味深い新たなポジションへと移動させることを支援しており、UnitedMastersは新進気鋭のアーティストにフォーカスを当てているものの、完全なるインディペンデントのメリットを大御所アーティストに力説することは妨げられない。兎にも角にも、Drakeが次のアルバムでどのような決断(メジャーとの契約か、レーベル・サービス契約か、DIYか、機関投資家が関与する新しい何かか)を下すにせよ、Drakeが非常に大きな額を稼ぐであろうことには、皆が同意するだろう。