先週ニューヨークで開催されたMusic AllyおよびMusic Biz主催カンファレンスのNY:LON Connectで、元Spotify幹部(およびLady Gagaのマネージャー)のトロイ・カーター氏が、ストリーミング時代におけるアーティストにとっての環境変化について語った。

カーター氏は、次のように語る。「メジャー・レーベルがなくなるとは思いません。メジャーレーベルはマーケティング、プロモーション、宣伝など、世界的に非常に高いレベルの専門知識を有しており、まだ重要な価値があると思います。」

その上で、「メジャー・レーベルは問題を抱えていると思います。彼らは、ゴール手前で喜んでしまっています。もし私がまだメジャー・レーベルにいたら、パニックになっていることでしょう。ビジネスが急速に変化しているからという理由だけで、業界は自己革新を怠ってきたのです。」と主張した。

カーター氏がSpotifyにいた過去を考えると、カーター氏の持つ、メジャーレーベルがこう進化すべきという考えには、眉を顰める人もいるだろう。

「ボブ・アイガー氏(ウォルト・ディズニー・カンパニーの会長兼CEO)とディズニーの例で言うと、アイガー氏は、次のように言っているわけです。『ネットフリックスにライセンスし続ければ、ディズニーの長期的な企業価値を構築することはできない。自分たちのデータは自分たちで所有し、自分たちのプログラムがどんなパフォーマンスとなっているかを把握し、サブスクリプションから、毎月の経常収益を得る必要がある。だから、我々は、自分たちでこれを創り上げる。今から我々はテクノロジー企業であり、あなたたちのプラットフォームから、全てのコンテンツを引き下げる!』と。」

「レコード会社は、そういった方向への動きを一切見せていません。『Huluのルートを取って、何社かで結託して、コンテンツを独占的に配信しましょう』と言うレーベルもいなければ、『自分たちのプラットフォームを創る』と大胆不敵に宣言するレーベルもいません。そういった大胆な動きが必要だと思うのです。」とカーター氏は続ける。

ダウンロード時代のごく初期においては、音楽レーベルがDSPになろうとする試みは成功しなかった(PressPlayやMusicNetなど)。しかし、カーター氏は、今なら、1つくらいはDisney+のようなモデルに続くメジャー・レーベルがあってもいいのではと本気で考えているようだ。

「自らを、レコード・レーベル以上の存在として考えなければなりません。レーベルが創り上げるバリュー・チェーンと価値を考え、例えばKhalidやBillie Eilishなどのアーティストに名前を付け、彼らをブレイクさせるR&Dの役割を担う。実質それは、Live Nationのマイケル・ラピーノ氏(同社代表取締役社長兼CEO)や、Spotifyのダニエル・エク氏(同社CEO)、その他、あなたたちがやった初期投資から価値を得ようとする人たちのために、R&Dのリスクを減らしてあげているようなものです。つまり、あなたたちはその価値を得ることができないと言うことです。」

また、カーター氏は、音楽業界が、バスケットボール・リーグのNBAのように、所有者(レーベル)のパワーではなく、プレーヤー(アーティスト)のパワーに支配されるようになると考えている。

「音楽は、本質的に、アーティスト主導のリーグになると思っています。『さて、Interscopeさん、あなたはこのアルバムを所有していますが、取引を強要します。私は次のアルバムでコロムビアに移籍するか、間のアルバムはインディペンデントになろうかと思っています』とアーティストは言うようになり、レーベルは、一回限りのアルバム契約を結ぶようになるでしょう。契約の多くはどんどん短期間になり、どのように活動するかを選ぶ際に、アーティストがより多くの力を持つようになるでしょう。」

また、カーター氏は、未公開株式投資会社が、ネットフリックスのように、トップ・アーティストの権利買収を行い始める可能性についても語っている。「彼らは『ねぇドレイク、あなたは年間1億ドル稼いでいるね。7億ドルで我々が買い取るよ」と言い始めるかもしれません。こういった企業は、長期的に、全てのロイヤリティを掻っ攫っていくでしょう。レコード会社に太刀打ちできますか?」とカーター氏は警鐘を鳴らした。