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ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)は先日、新しい音楽ストリーミングの収益分配モデルの実現に向けた取り組みをDeezerと連携して実施することを発表しました

Deezerは新たなモデルを今年第4四半期にフランスで始め、その後、他の国でも展開する予定です。

「アーティスト中心」の新たなモデルで強調されるのは、以下の4点です。

・Deezerは「プロのアーティスト」(最低500人のユニークリスナーによって、毎月最低1,000回以上再生されるアーティスト)の再生を「2倍」に増やします(UMGとDeezerは「Double boost」と呼んでいます)。

・Deezerは、「ファンが能動的にエンゲージする楽曲」の再生を「2倍」に増やします(アルゴリズムによってレコメンドされた楽曲やプレイリストなどの経済的影響力を弱めます)。

・「非アーティスト・ノイズ・コンテンツ」(ホワイトノイズ、自然音、ASMRなどを想定)を、Deezer独自の機能的音楽コンテンツに置き換え、これらのコンテンツの再生に対して、ロイヤリティ料の支払いを停止。

・収益分配を保護するため、プラットフォームを乱用する「悪質業者」を発見し、排除するため、より厳格な不正検知システムを更新し続けます。UMGは今後、Deezerの不正検知ツールとAI検知の開発に協力します。

これらの取り組みは、音楽再生に積極的なファンのエンゲージメントをアーティストや権利者に公平に還元する狙いがあります。

UMGの最高デジタル責任者であるマイケル・ナッシュ (Michael Nash)は、新たなモデルについて「アーティスト中心モデルの目標は、音楽がノイズの海に埋没する危険性を孕んだ構造を緩和し、ファンが1000人でも10万人でも1億人でも、あらゆるキャリアのアーティストへのサポートと還元をより確実に行うことです」と述べます。

DeezerのCEOであるジェロニモ・フォルゲイラ(Jeronimo Folgueira)は、「これは、音楽ストリーミングの誕生以降、最も野心的な経済モデルの革新で、来るべき時代に向けて、高品質なコンテンツの創造を支援するための変化です」と述べます。

収益化のカギを握るファン活性化

UMGとDeezerは、音楽ストリーミング内で生まれるファンエンゲージメントに関する調査結果も発表しました。いくつか結果を紹介します。

・Deezerに配信する全アーティストのうち、月間ユニークリスナーが1,000人を超えるのはわずか2%
・Deezerへの配信者の97%が総再生数のわずか2%しか生成していない
・サービス登録最初の月に再生したアーティストは、ユーザーのサービス利用において最初の2年間における再生の25%から30%を占める可能性がある
・Deezerの不正検知システムによって「不正」認定された再生は2022年全体では約7%
・「ノイズ」にタグ付けされた再生は、総再生数の約2%

最後の「ノイズ」認定される楽曲は、Deezerの発表によれば、今後は同社が生成する独自の機能的音楽コンテンツに置き換えられ、収益分配の計算対象からも外れるとのこと。

音楽業界の収益モデルを変えるかもしれない新しい仕組みには、常に疑問と議論を呼びます。

例えば、Deezerのユーザー規模です。Deezerは2023年上半期、全世界で有料会員が930万人。そのうちフランスの利用者は360万人と大半を占めます。

Deezerは、有料会員の内訳を「ダイレクト」(個人)と「パートナーシップ」(B2B、企業連携)の2つに分類しています。パートナーシップの有料会員は370万人。今回発表された新モデルが、どのユーザーに適応されるかは明言されていません。

Deezerが開発する不正再生の検知システムについても、様々な疑問が残ります。Deezerが検知した違法再生や不正行為に関するデータは、他社とも共有されるのでしょうか? ストリーミングから不正再生や人為的再生を低減させ、収益分配の健全化に向けた取り組みは、音楽業界で進んで来ました。不正行為に関するデータやツールアクセスは、業界を横断した連携の必要性も議論されていますが、状況はまだ一歩を踏み出したに過ぎません。

新モデルが提示する「2倍」「ダブルブースト」についての計算式も、議論が広がりそうです。

UMGは、Deezerの「アーティスト中心」モデルにおけるロイヤリティプールには制限があること。また、分配モデルは、現行の「プロラタ方式」(比例按分)で分配されますが、アーティストに帰属する再生量、つまりアーティストの市場シェアによって異なるとしています。

ユニバーサル ミュージックの動きに対して、ソニーミュージックとワーナーミュージックのメジャーレコード会社が賛同するか、または別の「アーティスト中心」の取り組みを始めるか、注目が集まります。ワーナーミュージック・グループの筆頭株主である投資会社のAccess Industriesは、Deezerの親会社でもあります。