SpotifyのCEOで共同創業者のダニエル・エクは、2026年1月1日付でCEO職から退任し、同社のエグゼクティブ・チェアマンに就任する。後任には共同CEOとして、共同社長兼最高製品・技術責任者のグスタフ・セーダーストローム(Gustav Soderstrom)と、共同社長兼最高事業責任者のアレックス・ノルストローム (Alex Norstrom)が就任する予定だ。最も両氏は今後もエクに直属する形となるため、依然としてSpotify社内外においてエクが強い影響力を持ち続けることに変わりはない。
https://newsroom.spotify.com/2025-09-30/spotify-announcement-daniel-ek-executive-chairman/
Spotifyは今回の体制変更について次のように説明している。
「今回の体制変更は、2023年以降、Spotifyが共同社長を中心に戦略的な開発と業務実行を主導してきた運営体制を正式に制度化するものです。エグゼクティブ・チェアマンに就任するエクの役割は、ヨーロッパ型の会長職体制により近いものとなり、資本配分の決定、Spotifyの長期的な将来像の策定、そしてシニアチームに対する継続的な支援と指導を担うことになります」
Spotify の従業員宛てのメモで、エクは今回の役割変更について、さらに次のように説明する
「私は今後、より長期的な視点に時間を費やすことになります。戦略、資本配分、規制対応、そしてSpotifyの次の10年を形成する意思決定に注力します。グスタフとアレックスは、引き続き私にレポートしながら、取締役会と緊密に連携していきます。新体制は、皆さんがよく知る米国型の組織体制とは異なり、ヨーロッパ型の会長職体制を反映したものです。これはまた、米国の会長職に属する人よりも、私がより実務に関与することを意味します」
エクはさらに「私はすでに日常的な経営、戦略的方向性の多くをアレックスとグスタフに委ねてきました。今回の変更は、すでに運用している体制に肩書を対応させたに過ぎません」と述べた。
エクからSpotify 従業員宛てに送ったメモはこちらで見ることができる。
https://newsroom.spotify.com/2025-09-30/daniel-ek-letter-evolving-how-we-lead/
共同CEOに新任されたセーダーストロームとノルストロムは、共同声明を出した。「私たちは、異なる経験と視点をCEO職に持ち込みますが、共通して強いアクション・バイアスを持っています。ダニエルからの全面的な協力と継続的な支援を得られる確信があり、新体制で業務を開始できることを楽しみにしています」
今回の新体制への移行は、エクのSpotify外での投資活動に注目が集まる中で発表された。エクが個人的に投資し、会長職も務める軍事AI企業「Helsing」への関与を理由に、多数のアーティストとレーベルがSpotifyをボイコットしており、楽曲を引き上げる反対運動が起きている。Deerhoof、King Gizzard & the Lizard Wizard、直近ではMassive Attackが、カタログ楽曲をSpotifyから削除する決断を下した。ただし、この対抗運動は現時点ではSpotify上の大手アーティストにまでは拡大していない。
エクは社員宛てメモで、Helsing関連のアーティスト・ボイコットには触れなかったものの、Spotify外での自身の野心について次のように言及した。「私はヨーロッパから、より多くのSpotifyのような企業を生み出したいと考えています。数年前、私はこうした『特別な企業』を創出する意向を表明しました。これらの企業は、私たちの時代が直面する最大の課題に取り組む新技術を開発する企業です。私はこの領域に自らの『起業家』としてのエネルギーを注いでいきます。ただし、今日のテーマはあくまでSpotifyです」
エクは2006年に、スウェーデンの起業家マーティン・ローレンツォン (Martin Lorentzon)とSpotifyを共同創業し、音楽権利者とのライセンス契約を経て、2008年にストリーミングサービスを開始した。ローレンツォンは2016年に会長職を退いたものの、現在も取締役として名を連ねている。
セーダーストロームは2009年にSpotifyに入社する前、2006年から2009年までYahoo!Mobileの製品・事業開発ディレクターを務めていた。2003年にはモバイル向けコミュニティ・ソフトウェア開発のKenet Worksを創業し、2006年にYahoo!へ買収されるまでCEO職を務めた。彼はスタートアップのシード投資家であり、また3Dマッピングのソフトウェアを開発する13th Labを創業した。同社はFacebook子会社のOculusに2014年に買収された。
ノルストロームは2011年にSpotifyへ入社する以前、ゲーム「キャンディクラッシュ」開発のKing.comで最高新規事業責任者を務めていた。また2016年から2019年までフィンテック企業Circleの取締役も務めていた。Spotifyで14年以上にわたるキャリアの中で、ノルストロムは様々なリーダー職を歴任してきた。現職の最高事業責任者では、音楽、ポッドキャスト、オーディオブック事業を統括してきた。また、マーケティング、グローバル展開、パートナーシップ、ライセンス、決済、カスタマーサービスなど幅広い領域で重要職に就いてきた。