Spotifyは先日、バイラルチャート「Viral 50」を、グローバル版と国別版の両方を密かに終了した。この廃止は、音楽業界にとって何を意味するのか?そして、国内や世界でブレイクスルーを目指すアーティストにとってどんな影響をもたらすか?
なぜ廃止したのだろうか? Spotifyの広報担当社はBillboardに対し「Spotifyは、今日のリスナーが音楽とどのように関わっているかを最もよく反映する機能に注力する継続的な取り組みの一環として、バイラルチャートを終了しました」と答えた。Spotifyは、引き続きバイラル・トラックを知りたいユーザーに向けて、主要チャートに加えて、プレイリスト「Viral Hits」へ誘導している。同プレイリストは日本版「Viral Hits Japan」に加えて、英国/アイルランド版、グローバル版が更新されている。
Spotifyでは再生回数が基準の通常チャートと異なり、バイラルチャートはランクインする基準が音楽業界内にも明確に示されてこなかった。Spotify上での再生数だけでなく、楽曲のシェア数、エンゲージメント、急激な再生の増加、新規リスナーからの再生など、複数のデータがチャート入りに影響を及ぼしていた。そのため、バイラルチャートに入る楽曲には、通常チャートよりも組織的に急伸された楽曲や、人的にエンゲージメントが操作された楽曲、ボットによる再生で伸びた楽曲が多く含まれるようになっていた。Spotifyバイラルチャートは、基準が分からない反面、Spotify最も楽に低コストで上位を狙えるチャートの一つとして、一部の悪意あるユーザーによって悪用されてきた懸念があった。
また最近では、AI生成楽曲のチャート入りが顕著に見られた。それらを象徴するのが、昨今バイラルチャート入りしたAI音楽やAIボーカルのHAVEN.の「I RUN」、Spalexmaの「We Are Charlie Kirk」、Sienna Roseなどの楽曲だ。AI生成楽曲のチャートイン増加がバイラルチャート廃止の理由かは定かではない。しかし、本当にリスナー間で勢いある楽曲を示すチャートとしての信憑性が問われてきたことは容易に推測できる。
音楽業界への影響、特にSNSでのバイラルからのチャートインを指標の一つとしてきたレコード会社においては、基準が一つ無くなった。特に、新人アーティストや新進アーティストを育成するレーベルは、TikTokやInstagramでバイラル化した楽曲を、チャートで見つけることが難しくなる。
また、日本人アーティストにとって、バイラルチャートは、数少ない海外チャート入りする貴重な機会だった。今後は、より競争が激しい海外の通常チャート入りを目指す必要がある。しかし、そのためには、海外で再生回数を継続的に獲得する、という大きな挑戦を超えなければならない。
ここで重要なのは、Spotifyが奨励している「Viral Hits」と、その狙いだ。同プレイリストはSpotifyのエディトリアル・チームが管理するエディトリアル・プレイリストという点だ。それ故に、人的に操作される可能性があったバイラルチャートとは大きく異なり、編成担当がキュレーションしており、Spotifyでどの楽曲が人気か、を完全に管理できる。
「Viral Hits」プレイリストの上位を占めるのは、突然注目を集めた無名アーティストや、過去の実績が全く無いアーティストよりも、メジャーアーティストやディストリビューター配信アーティスト、すでに知名度のあるアーティストが中心となっている。
バイラルチャート廃止後に、リスナーを編成チームが管理するエディトリアル・プレイリストに移行させようとするのは理にかなっていると言える。Spotifyの今回の動きは、一部のリスナーやファンからは反感を買うものだろうが、Spotify上で本当に再生される楽曲や、人気を集めている楽曲を可視化するというプラットフォームの透明性を確保する意味で、リスナーの信頼を集めることへ繋がっていくはずだ。
今回のSpotifyの動きは、音楽ストリーミング業界全体で起きている、急増するAI生成コンテンツへの対応と、悪意ある人為的再生や水増し再生、違法行為への対処という2つの音楽業界全体における懸念への取り組みと捉えることができる。今後も配信されるAI生成楽曲数は急増し、人気を集め、再生される楽曲も増えていく。ボット再生や水増し再生などの不正行為や人的操作してチャート入りや再生を狙う行為も続くだろう。DSP各社は、今後こうした楽曲や行為が自社プラットフォームやリスナー間で広がらないように、対策を続けていくこととなる。
