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Music Allyは、世界中のインディペンデントアーティストやレーベルが、変化の激しい音楽市場において成長し収益化を成功させるためのサービスを提供している、音楽ディストリビューター「Believe」CEOで創業者のデニス・ラデガエリ(Denis Ladegaillerie)に、同社の海外戦略について、独占インタビューを行いました。

フランスに拠点を置くBelieveは現在、世界各地の音楽市場への進出と、グローバル成長戦略に重点を置いています。

特に同社が注力しているのがアジア太平洋地域(APAC)で、インド、中国、東南アジア、オーストラリア、日本を含む15か国に展開し、約480人の体制まで成長してきました

中でも、Believeが近年、強化してきたのは、インドへの進出です。既にムンバイにオフィスを開設し、モハリ、チェンナイ、デリー、ベンガルール、ハイデラバードの6都市で拠点を新たに作りました。

世界で台頭するBelieveの戦略

ラデガイレリによれば、インドは同社の戦略における「理想的な市場」と述べます。同氏は、Music Allyに対して、同国の音楽市場の魅力を、3つの視点で説明していました。

第一に「Believeの海外戦略では、ローカルアーティストが再生数の大部分を占める市場に焦点を当てています」と述べます。「(インドでは)昨年、Spotify再生数の75%が、地元のアーティストから生まれました」

2つ目の要因は、インドが「極めてデジタル中心の市場」であることです。IFPIのGlobal Music Reportによれば、2022年には、インドの原盤音楽収益の90%を、ストリーミングとその他のデジタル売上が占めました。「デジタル寄りの市場であるため、(私たちは)アーティストに対して、より多くの価値を提供できます」と述べます。

3つ目の要因として、ラデガイレリーは「インドのアーティストの収益構造を見ると、YouTubeが50%、Spotifyが20%近くあります。

これらは、アーティスト育成の過程で、インドだけでなく世界各地でBelieveが強みとするサービスです。アーティストと彼らの目標達成に対して価値提案する私たちにとって、インド市場は、非常に可能性ある市場です」と述べています。

BelieveはSpotifyインドで、全てのレーベルとディストリビューターの中で、最も多くのリスナーシップを獲得した

ラデガイレリーは、BelieveがSpotifyのDiscovery Modeプログラムを使って配信した、インド人アーティストの楽曲32,000曲の再生数は「5倍近く増加」した、と市場の潜在力を說明します。

同社が契約するアーティストでは、YouTubeインドのチャート1位を獲得したJeetu Sharmaの「Har Har Shambhu Shiv Mahadeva」や、Spotifyインドのウィークリーアルバムチャート1位を獲得したMC Stanの『Insaan』など、既に実績があります。

Believeにとっての「優先市場」であるインドにおいて、同社は、地元アーティストやレーベルとの契約を獲得するだけでなく、企業買収を行い、一貫してインド市場に投資してきました。2019年に、Believeはボリウッドのレコード会社「Venus Music」を買収し、後に「Ishtar」と社名変更しました。ライブ制作会社「Entco Music」や、アーティストマネージメントエージェンシー「Canvas Talent」も買収しました。2021年には、南インド地域に特化したレーベル「Think Music」の株式76%を1300万ユーロ(約21億円)で取得しました。

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Believe 2022年度のアーティスト配信数及びデジタル音楽売上

 

これらの投資は、収益という結果に繋がりました。Believeは今年初め、2022年度の売上高が前年比31.8%増の7億6080万ユーロ(約1204億円)まで成長したと報告しました。

同社は、国毎の実績を公表していませんが、2022年には、アジア太平洋とアフリカからの収益が最も増加し、1億9930万ユーロ(約315億円)に拡大しました。ラデガイレリーは、「インドはBelieveのAPAC地域で最大の市場」で、「同地域からの収益の40%から50%」を生み出していると述べます。「(インドは)最も急成長している市場の1つで、今後も成長は続くでしょう。YouTubeへの依存度が非常に高い市場のため、過去1年において、広告収益低下による影響も受けました」

2023年第1四半期には、BelieveはSpotifyインドにおいて、全てのレーベル及びディストリビューターの中で、最も多くのリスナーシップを獲得することに成功しました。

ラデガイレリーは成功の要因に「重要なのは、これらの殆どがローカルカタログであることです」と述べます。「海外楽曲カタログの存在は、この市場では非常に少ないのです」

Believeは「独立系音楽企業」では最大のプレーヤー

Believe Indiaのマネージングディレクターのヴィヴェーク・ライナ(Vivek Raina)は、Believeが「独立系音楽企業」の領域では最大のプレイヤーであり、音楽ストリーミングサービスとYouTubeの再生においては、グローバルメジャーレーベル及び地元の主要レーベルに次ぐ存在であると述べます。(同社は「独立系」という分類を、インド言語映画のサウンドトラック以外のすべての音楽を指すために使用しています)

ライナ率いるBelieveインド・チームは、過去10年間、国内市場で最も急成長してきた分野の1つである地域言語の音楽市場の潜在力をいち早く見抜きました。

Believeのアーティストサービス・ディレクターであるシルパ・シャーダ(Shilpa Sharda)は「私たちは、メジャーレーベルがヒンディー語音楽に焦点を当てたのとは異なり、インドの地域音楽に焦点を当てました」と述べています。

Believeの次の目標は、アーティストサービスと育成を100組まで増やすことです。

同社は、ヒンディー語、ボージュプリ語、ハリヤナ語のアーティストや、「歴史的にインディペンデント・アーティストが存在してきた地域」に焦点を当てています。地域言語音楽の消費の割合は、次の2-5年で30%から40%に増加する一方、海外アーティストの音楽消費が減少すると予測されます。

Believeの収益は、年々増加していますが、ラデガイレリーは収益性には、より長期的な見通しを持ちます。「(YouTube)広告収入に依存したインド市場が『発展途上期』にあると仮定すると、収益性には満足しています」と述べます。

「音楽市場は通常、成熟するまで20年から25年かかります。有料のサブスクリプションをモデル化すると、どの市場でも同じ傾向が見られます。音楽サブスクリプション利用率は、ゼロから人口の0.1%、0.25%、0.5%に移行します。現在、インドは0.6%です。来年は1.1%または1.2%に達し、再来年には2.5%、その後の5-7年間で、年間3%から4%成長して、将来的に人口の25%から30%に達するでしょう」と語りました。

言い換えれば、今後、急速な成長期が予想されています。

ラデガイレリーは、「インド市場は転換期を迎えています。一部のレーベルは、苦労するでしょう。なぜなら、彼らは、これまで非常に高い最低保証金を受け取ってきたからです。しかし、一部のサービスは今、『今後、これらを支払う意思はありません。代わりに、収益分配を行い、プレミアムサービスに移行するつもりです』と言っています。これは健全な動きです。成長の遅れの要因は、無料の広告型サービスが多すぎて、収益化が困難だったためと考えています」と述べました。

インドでは、GaanaとRessoが2022年と2023年に、それぞれサブスクリプションサービスへ移行しており、Spotifyインドもプレミアム・サービスを強調したプロモーションを行っていることは特筆に値します。

Believeは今後、インドで「特定の音楽ジャンルにソリューションを構築するために、さらに多くの投資、買収、長期的な提携を行う」計画を明らかにしました。

映画スタジオ「Panorama Studios」のリリースを独占的に配信する契約を獲得しました。しかし、戦略の焦点は、引き続き「ローカルアーティストとエコシステムの育成」に置かれます。

ラデガイレリーは「次に私たちが自問すべきことは、これらのアーティストの何組を、グローバル市場の注目アーティストに成長させるには、どんな支援ができるか?です」と述べます。

Photo Credit: Anis Martin