2019年3月に、Spotifyは、App Storeおよびアプリ内課金の運用方法など、アップルの反競争的行為に対して、欧州委員会に申し立てを行なっていた。それから15ヶ月経って、欧州委員会が正式にAppleの独占禁止法調査を開始することとなった。

 事実、アップルに対して、Spotifyの苦情を含めた、二つの調査が実施されるという。一つ目の調査は、「App Storeを介したアプリの配布に関して、アップルが設けるアプリ開発者向け規定が、EUの競争ルールに違反しているかどうか」を評価するものであり、Spotifyの申し立ておよび、楽天傘下の電子書籍Koboがきっかけとなった。

 「モバイル・アプリケーションは、我々のコンテンツへのアクセス方法を根本的に変えました。アップルはiPhoneおよびiPadユーザーに対するアプリ配布に関するルールを設定しています。アップルの人気デバイスのユーザー向けのアプリおよびコンテンツの配布に関して、アップルは『ゲートキーパー』としての役割を得ていたようです」と欧州委員会の上級副会長であり、競争制作を率いるマルグレーテ・ヴェスタガー氏は述べている。

 「音楽ストリーミング・サービスのApple Musicや、Apple Booksなど、アップルが他のアプリ開発者と競合している市場において、アップルのルールが競争を歪めていないことを確認する必要があります。従って、アップルのApp Storeの規定がEUの競合ルールに準拠しているかどうかを詳しく調べることといたしました。」

 Spotifyの申し立てには、アップルのハードウェアおよびサービスへのアクセスの制限の他、アプリ内課金の売上におけるアップルの取り分(Spotifyなどのアプリ内サブスクリプションの場合30%、加入者が1年間支払い続けると15%に下がる)、そして、企業がアップルへの収益分配を回避するために、アプリ内で直接サブスクリプションを宣伝できないようにする規定が具体的に含まれている。欧州委員会による調査もこれらの項目に焦点を当てる予定だ。

 二つ目の反トラスト法公式調査は、Spotifyの申し立てとは関係がなく、Apple Payの支払い技術がアプリ内および小売店でどのように機能するかに関連するものとなっている。

 Spotifyは既にグローバル・アフェア責任者であり、再興法務責任者であるオラシオ・グティエレス氏からの声明を発表している。

 「今日は、ヨーロッパおよび世界中の消費者、Spotify、そしてその他のアプリ開発者にとって良き日です。アップルの反競争的行為は、あまりにも長い間、意図的に競合相手を不利にし、不平等な競争条件を生み出し、そして、意味のある選択肢を消費者から奪ってきました」とグティエレス氏は語っている。

 「我々は、アップルを正式に調査するという欧州委員会による決定を歓迎し、デジタル経済の全ての参加者に対して、iOSプラットフォームにおける公正な競争を確保すべく、彼らが緊急に行動することを願っています。」

 アップルも声明を発表している。「アップルはこれまで、世界で最も競争の激しい市場のいくつかで、画期的な新製品およびサービスを生み出してきました。我々はすべてのことにおいて、法律を遵守し、あらゆる段階における競争を受け入れています。なぜなら、より良い結果を届けるよう、競争が我々を後押ししてくれると信じているからです」とアップルは述べている。

 「我々は、二つの目標を定めて、App Storeを開発しました。消費者がアプリを発見してダウンロードするための安全かつ信頼できる場にすること、そして、企業家および開発者にとって、素晴らしいビジネス・チャンスをもたらすことです。我々は、App Storeを通じてイノベーションを起こし、成功を収めてきた無数の開発者を深く誇りに思っています。そして、共に成長するにつれ、Apple Payなど、業界をリードするようなプライバシーとセキュリティ基準を満たしつつ、顧客に最高の体験を届ける革新的な新しいサービスを提供し続けてきました。」

 調査に関しては、「欧州委員会が、他の企業と同じルールに従いたくない、タダ乗りを狙っているほんの一握りの企業による根拠のない苦情に基づいて、調査を進めようとしているのは残念です。我々はこれが正しいとは思いません。我々は、決断力と優れたアイデアを持つ人であれば、誰もが成功を収めることのできる平等な競争条件を維持したいと考えています」と続けている。

 「結局のところ、我々の目標はシンプルです。お客様が安全で守られた環境で、選んだ最高のアプリおよびサービスにアクセスできるようにすることなのです。我々は、欧州委員会に対して、その目標を実現すべく我々が行なってきた全てのことを示す機会を歓迎します。」

 昨年、Spotifyはアップルに対する苦情の詳細を説明する「Time To Play Fair」というウェブサイトをローンチしている。一方アップルは、Spotifyの主張に反対する独自の声明を発表している。今後の独占禁止法調査に際して、両社の議論は徹底的に報道されることになるだろう。

 最初の申し立て以降、両社の紛争に動きがあった部分もある。2019年10月には、SpotifyはApple TV向けアプリをリリースし、iPhoneにおけるアップルの音声アシスタントであるSiriと統合している。これら二つの項目は、以前には妨げられているとしてSpotifyによって挙げられていた。

 2020年4月には、SpotifyのアプリがApple WatchのSiriとも統合されている。その翌月には、SpotifyのCEOであるダニエル・エク氏がブルームバーグに対して、「長期的に、アップルが開放していくことを期待しています。正しい方向に進んでいますが、まだまだ踏むべきステップが沢山あります」と語っている

 ちなみに、今月22日に行われたアップルのWWDCイベントで、アップルのスマートスピーカーであるHomePodでついに、Spotifyなどのサードパーティ音楽サービスが利用可能になることが示唆されている。