日本の音楽業界から世界に向けて、一つの大きなカタログ買収案件が発表された。世界的音楽家である故坂本龍一の音楽カタログ(著作権および原盤権、約1,500曲)を、著作権管理事業を手がける株式会社NexToneと、インディペンデント・アーティストやレーベルへの投資と、カタログ楽曲の再活性化、ディストリビューション、マーケティング支援を専門とする米国のExceleration Musicが共同で取得する契約を締結した。
両社が取得するカタログ約1500曲には、『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲『Merry Christmas Mr. Lawrence』、『ラストエンペラー』の「The Last Emperor」などの映画音楽、そして『energy flow』『Rain』『Aqua』など代表曲が含まれる。
両社は共同出資で権利を坂本龍一の資産管理団体より取得。契約金額は非公表。権利保有期間は、将来的に第三者に売却しない限り、NexToneとExceleration Musicが永続的に保有する。Exceleration Musicにとって、今回の契約は日本市場への本格参入として初めての案件となる。
両社は今後、世界市場に向けたプロモーションやマーケティングを展開し、カタログ楽曲の再活性化、価値の最大化を目指す。
Exceleration Musicはアジア以外における権利の管理と収益確保を担う。NexToneはアジア圏内での管理を行う。また、日本以外のアジアでの著作権アドミニストレーション業務は、株式会社フジパシフィックミュージックが担う。
坂本氏のマネジメント会社であるKABとも連携しながら、今後の未発表音源のリリースなども共同で手掛けていく。
日本の音楽業界では、大規模な楽曲カタログの権利取得やレガシー音楽IPへの投資と運用は、欧米に比べ、これまで一般的ではなかった。
海外市場では近年、カタログ投資と売買は急拡大市場だ。
著名アーティストや作曲家が自身の楽曲カタログの権利、著作権、原盤権を投資ファンドやレーベルに売却するケースが後を絶たない。
拡大する理由の一つには、単なる話題作りではなく、著作権・原盤権収入は、ストリーミング時代には短期的な売り切りの商品ではなく、長期で安定したキャッシュフローを生む資産という認識が、投資家やメジャーレーベルの間で急速に広がったことが挙げられる。
一方で、カタログ権利を投機対象として評価する流れに対抗する形で、別のトレンドも生まれている。
それは、音楽カタログやレーベル、アーティスト、作詞作曲家の本来の価値を長期間かけて高め、新たなファンや市場を開拓する目的で権利を運用する企業の存在だ。
今回NexToneが単独ではなく、共同出資パートナーとして選んだExceleration Musicはこの分野に位置する企業で、単なるカタログ売買からのリターン目的の投資ファンドとは一線を画す。
Exceleration Musicの経営者は、いずれもインディペンデント音楽企業の経営やアーティスト支援、ディストリビューションの現場を渡り歩いてきたリーダーたちで、投資するレーベルの経営者や権利者と同じ価値観を共有する。
実際にExceleration Musicは、権利を取得した後も保有して終わりではなく、アーティストの遺産 (レガシー)を守り、価値を育てるために、レーベル運営や権利運用に深く関与するのが特徴だ。
同時に、権利取得だけでなく、A&R、マーケティング、フィジカルのディストリビューション、レーベル新設など、多岐に渡る活動で、音楽の価値を高めていくアプローチが強みだ (Exceleration はフィジカル・ディストリビューションが強みのRedeye Distributionを買収している)。
同社のカタログ売買の戦略については、創業者の一人、元MerlinのCEOを務めたチャールズ・カルダス (Charles Caldas)が、Music Ally Japanが今年1月に主催した音楽ファイナンスのイベント「Business and Finance Summit Vol.2」に登壇した際のトークを覚えているいる方もいるはずだ。
過去イベント:「カタログ売買の専門家は、アジア楽曲の市場価値と成長性をどう見ているのか」【2026/1/14(水)オンライン開催】Business and Finance Summit Vol.2
NexToneは今回Exceleration Musicと組むことで、一社での権利取得では得られないグローバル規模でのカタログ運用実務のノウハウを取り込むことができると推測される。
Excelerationにとっても、日本国内の権利管理実務やアジアでの管理をNexToneとフジパシフィックミュージックと連携して行うことで、アジア圏でのポテンシャルを最大限に引き出す機会を得られる。
また両社にとって収益構造の面からもリスクを分散でき、地域を超えて安定的な収入が積み上げられる。
お互いの強みを持ち寄る座組を選んだことは、カタログ取得・運用における戦略的な選択肢だったと言える。
