• 投稿カテゴリー:音楽業界

投資会社のCVCキャピタル・パートナーズは、DIYアーティスト向けディストリビューター「DistroKid」の株式過半数を買収することで合意した。

今回の株式取得の金額は公表されていない。取引後も、DistroKidは、現状の体制でサービス展開を継続する。

DistroKid社長のフィル・バウアー (Phil Bauer)が引き続き同社の経営を続ける。

また同社の既存投資会社であるインサイト・パートナーズは、今後も少数株主持ち分を保持し続ける。取引は9月末までに完了する予定。

今年1月には、DistroKidが売却先を検討していることが報じられていた。その時点での同社の評価額は20億ドル (約3250億円)と見積もられていた。(関連記事: 音楽ディストリビューター「DistroKid」が身売りを検討。約20億ドル規模で買い手探し)

DistroKidは、レーベルと契約しないインディペンデントアーティストがDSPへの配信で利用するDIY型ディストリビューター市場において、登録アーティスト数や配信楽曲数では世界最大規模と言われている。

2021年時点で、同社は世界で200万組以上のアーティストに利用されていると述べており、「世界で配信される新譜の30%〜40%」を配信していると説明していた。

同じ領域では、Amuse、CD Baby (Virgin Music Group傘下)、TuneCore (Believe傘下)、UnitedMastersなどがサービスを展開しており、競争も激しい。

またDistroKidは、近年のAI生成音楽の台頭においても、同社の利用が拡大している。

AI音楽チャートを運営するSIQAが発表したチャート分析レポートによれば、同社チャート入りした楽曲の75.8%がDistroKid経由で配信されていたと発表した。

SIQA調べでは、DistroKidの他は、TuneCoreが4.7%、UnitedMastersが3%、CD BabyとLandrがそれぞれ2.1%、TikTokが運営するSoundOnが1.3%という結果だった。

ただし、DistroKidは音楽業界内でAI対策の取り組みにも参加しており、Spotifyが2025年9月に発表した、AI利用を開示する新たな業界標準の音楽クレジット表記制度にも、立ち上げパートナー企業の1社として加わっている。

CVCのパートナーであるセバスチャン・キューネ (Sebastian Künne)は、次のように述べた「フィルとDistroKidのチームがこれまで築き上げてきたものには、大変感銘を受けています。

DistroKidはアーティストが最も必要とするものに一貫して注力することで、数百万人ものアーティストからの信頼を獲得してきました。

今後、私たちの音楽、エンタテインメント、そしてコンシューマー向けサブスクリプション事業に関する知見を活かし、フィルとチームとの連携を通じて、世界中の次世代アーティストたちを支援していけることを楽しみにしています」

今後のDistroKidの経営戦略において、CVCが大きな影響を与える可能性がある。

DistroKidへの投資は、CVCにとって音楽業界案件では2件目の大型投資となる。

2024年10月、CVCは投資会社KKRとともにライブイベント会社「スーパーストラクト・エンタテインメント」へ共同出資している。

同社はドイツの野外音楽フェス「Wacken Open Air」 (動員数8万人以上)、スペインの「Sonarフェスティバル」(15万人以上)をはじめ、ヨーロッパとオーストラリアで80以上のフェスティバルを運営している。

CVCのエンタテインメント・スポーツ分野への投資先には、ステージ・エンタテインメント、フォーミュラ1、スペインのプロサッカーリーグ「ラ・リーガ」、フランスのプロサッカーリーグ「LFP (Ligue de football professionnel)」、ラグビーの国際リーグ「ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ」などがある。

DistroKidの少数株主を続けるインサイト・パートナーズにも注目したい。今年1月には、ドイツの著作権管理団体「GEMA」がデジタル配信事業から撤退したのに伴い、ベルリンのディストリビューター「Zebralution」を買収している。

DistroKidとCVCの取引は、昨今音楽業界で議論されている、ディストリビューターの独立性の観点でも注目される。

DistroKidの売却見積もり想定額の20億ドル (約3250億円)は、ユニバーサル ミュージック グループのVirgin Music GroupがDowntown Music Groupを買収した際の買収額7億7500万ドル (1260億円)を2.5倍以上も上回る金額だ。

このことからも、DistroKidが今後も、メジャーレーベル資本の外側に位置する立場をより確固たるものにしたと言える。

投稿者

  • ジェイ・コウガミ

    ジェイ・コウガミは、Music Ally Japanのエディトリアル・ディレクターで、ニュースレター記事執筆・配信、イベントおよびカンファレンスのモデレーターを担当しています。