ツアーのチケット販売に価格変動制、所謂ダイナミック・プライシング方式を導入したことによって、ブルース・スプリングスティーンのチケットが、販売価格200ドル以下(27000円)から、4000ドル(53万円)や5000ドル(67万円)という価格に高騰したことを受けて、チケット入手困難になったファンがツアー運営側を批判する、という状態が続いています。一見すると、ダフ屋が違法に販売する価格にも見えますが、これは正規に販売されるチケットで、価格が60万円以上となったことで、ファンを蔑ろにしているとのコメントがSNSで流れています。

ブルース・スプリングスティーンのマネージャーを務めるジョン・ランドーは、チケット販売戦略を擁護します。「他のアーティストが行ってきたやり方を慎重に見てきました。そして、他よりも低い、または同じ水準の価格を選びました。

1000ドルを超えたチケットがあった件に関しては、私たちの平均価格は200ドル半ばでした。今の時代では、この世代で最も偉大なアーティストの一人を見るには、これが妥当な価格であると私は信じています」と説明します。

この問題の透明性を高めるため、スプリングスティーン側はチケット販売では異例となる実績の数値を公表しました。それによると、1000ドル以上のチケットを支払ったユーザーは全体の1.3%で、88.2%のチケットは固定の価格で購入されました。11.8%のチケットは額面価格以上で販売されています。

この価格変動制のチケット戦略は誰が設定するのでしょうか? チケットを販売するTicketmasterによれば「プロモーターとアーティストの代表が価格戦略と、固定価格及び価格帯の変動幅を決めます。チケットの供給よりも多くの参加希望がある場合、チケット価格が上昇します」と説明します。

ライブ業界ではダイナミック・プライシング自体は新しい手法ではなく、チケット販売の主流になりつつありますが、スプリングスティーンのファンにとって経験の無い購入方法だったことも混乱を招きました。

今回のツアーは、ブルース・スプリングスティーンが2016年以来、初めて彼のバンドと本格的に再開するツアーであることから、需要の高さが伺えます。長年待ち続けてきたファンにとって、今回のダイナミック・プライシングでのチケット販売がフェアかどうかに加えて、チケット価格と見返りのバランスとは何か、が論点の一つとなっています。

200ドル(27000円)でも高額です。それでもスプリングスティーンのファンにとって、自分たちのヒーローをひと目見るために支払う価値があると思っているはずです。しかし、もし自分が700ドル(94000円)を支払って、隣の人が200ドルしか支払っていないと知ったら、どんな気分になるでしょうか? チケットのダイナミック・プライシングが影響を与えるのは、ツアーの収益だけでなく、ファンとアーティストとの関係にも影響を与える可能性があります。

Music Allyでは先日、チケット販売戦略と変動制についてチケット販売関係者と議論したポッドキャスト番組を公開しました(ポッドキャストは英語です)。この中で、ゲストのチケット販売プラットフォーム、Lyteのローレンス・パーヤーが、変動制チケット販売の定義や、違法転売の撲滅、チケット購入の公平性など、様々なトピックスを議論しています。

チケット販売の公平性を唱える音楽業界団体Fan Fair Allianceがこのポッドキャストに反応しており、Megan Thee Stallionのロンドン公演のチケットが額面価格の52.40ポンド(8500円)から変動制の価格で96.55ポンド(16000円)に上昇していることを指摘するなど、アメリカだけの問題でなく、他の国でも広がっている問題であることが伺えます。